Novel

□僕とキミとアイツと…。
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僕は、佐々木栞が好きだ。
けど、まだ一度も話したことが無い。
でも、別にいい。
授業中、斜め前にいる彼女の姿を眺めるだけで幸せだからだ。
ただ、ずっと彼女を見ていたら僕の想いは絶対に届かないこと知った。知ってしまった。
彼女もまた、僕と同じように誰かを見ていた。
見たこともないような顔で。
日が経つにつれて彼女が誰を見ているのかが分かるようになった。
彼女は斜め前にいる椎名和紀を見ていた。

椎名和紀。

彼は人気者だった。
クラスの中心人物であり、顔も格好いい部類に入る。そして何より佐々木さんを虜にしている人物。
なんとなく、彼に勝てる部分を探してみる。

顔。

駄目だ、絶対に勝てない。

勉強。

よく、人に教えているのを見るからいいのだろう。勝てない。

運動。

運動音痴な僕が勝てるわけがない。

「…はぁ、」

息を小さく吐き出しながら机に突っ伏する。
こんなこと、考えなければ良かったと、後悔。改めて自分じゃ勝てないことを思い知ることになったじゃないか。ちらりと佐々木さんを見ると彼女は熱心に椎名を見詰め続けていた。


佐々木栞は椎名和紀が好きだ。
授業中、斜め前にいる彼をずっと眺めるのが彼女の日課であり、楽しみでもある。

「…椎名くん、」

ぼーっとしながら無意識に彼の名前を呟けばふふっと笑ってみせる。その顔はとても幸せそうに見えた。
しかし、彼女にはある悩みがあった。
ふいに椎名が後ろを向く。
彼女は最初、自分に気付いてくれたのかと思っていた。
だが、違った。
彼は栞の更に後ろにいる人物を見ていた。
そして、誰にも見せたことのないような顔で微笑むのだ。栞はそれを見るたび黒い感情に支配される。
嫉妬なのか、哀しいだけなのかは解らないけど、ただその視線を向けられている人のことをよく思っていないことだけは解っていた。

「……椎名くん、椎名和紀くん」

今は前を向いている彼の名前をもう一度呟く。
彼はもう後ろを振り向かなかった。


椎名和紀には好きな人がいる。
それは、

簡単には口に出せない人。

本当は好きになってはイケナイ人。

そして、

自分じゃない他の誰かに想いを寄せている人。

彼は知っていた。アイツは誰が好きで、それは俺と同じように相手に届く確率が少ないことを。
でも、彼はそれさえも楽しもうとしていた。

「恋愛は、障害が無いと愉しくないだろ?」

それが彼の定義だ。
ふいに後ろを振り向く。
机に突っ伏しながら溜め息をつく愛しい人。
その可愛らしい様子に彼は口角を少し上げて微笑んだ。
今日も、愛しい人の瞳は自分を捕らえてはいないけれど椎名は別に気にはしなかった。
前を向き指でペンを弄りながら彼はその笑みを濃くした。

「…いつか、その瞳に俺しか写らなくなりますように…っと」

ノートの端にハートマークを書くとこっそりとそれに口付けた。
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