Novel

□空と雲の関係性
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月は太陽がいなければ輝くことは出来ない。
それは多分、人にも言えることだろうと俺は思う。人が活躍するにはやっぱりそれを輝かせることの出来る明るく照らす存在が必要だ。けど、それよりも重要なのは『影』だ。いくら照らしてくれる人がいても影か濃くなければ力強くは輝けない。俺は、その影になりたいと思う。勿論、太陽になりたいとも、月になって静かに輝きたいと思うときもある。けど、影…いや、空のが合っているか。それになりたいんだ。

「ねぇねぇ、藍澤。なんでお前は裏方ばかりやるんだい?まぁ、似合ってるからいいけどね」

「そう思ってるなら、聞かないでほしい」

「それは出来ないな」

そう言ってくるのは級友の鷺沼だ。コイツは、あれだ。太陽でも月でもない。かと言って俺と同じ空になりたいとも思っていない。言うならば…コイツは雲だ。出たり消えたりする、気紛れな雲。

「まぁ、いいけど。鷺沼、お前は雲だな」

「…雲?…何を言ってるんだ?藍澤」

困ったように笑ってみせるがコイツは何を言いたいのかわかっている。指摘すれば「藍澤、そこは一応『なんもない』って言うとか、説明するとかしてよ」と今度は本当に苦笑された。まぁ、初めから説明するつもりだったからいいんだけど。なんとなくデコピンをしてやったら「いたっ!!」と大袈裟な表現をした。

「まぁ、簡単に言うと、鷺沼。お前は太陽でも月でもないし、俺みたいに空になりたいとも思っていない。ならばと考えたらお前は雲だったって話だ」

「ふーん、成る程ね。じゃあ、藍澤はある意味の主役というか、中心人物になりたいわけだ」

「お前、俺がいつそんなことを言った?」

「言ったも同然だよ。説明しようか?」

「ああ、」

鷺沼は満足そうに頷けば椅子に座り直した。

「確かに一番目立つのは太陽と月だ。でも、実際上を見上げたら何が目に入る?」

「……、」

俺は黙ったままだったが鷺沼は話を進めた。

「空だよ。空。太陽や月はその一部でしかない。だから真の主役は空だと俺は思うよ」

「でも、目立つのは空以外だろ」

「うん。それはそうだね」

「だったら主役は空ではないだろ」

「んー、それは違うかな」

どういう意味だ。眉を下げてわからないというジェスチャーをしてみせれば鷺沼は苦笑した。

「藍澤、本当にわかってないのか?」

肯定の代わりに首を縦に振る。鷺沼はわざとらしく大きく溜め息をついた。

「確かに、藍澤が言うように目立つのは太陽や月だよ。それはわかる。でもやっぱり目に入るのは空だよ。少し見上げただけでも…いや、見上げなくてもわかるだろ?」

「そう言われれば、そうかもな」

「でしょ?…まぁ、そんな空を覆い隠すことが出来るのが雲なんだけどね」

「あー…だからか」

「だから?」

鷺沼は首を軽く捻りながら聞き返してきた。あぁ、心の中が口に出ていたのか。頭をかしかしと掻く。なんて言えばいいのだろうか。……そのまま言えばいいか。

「…あー、その、雲をお前にあてた理由がわかった気がした。というだけだ」

「ふーん…。ねぇ、じゃあその理由、教えてよ」

言わなければ良かった。とそのとき思った。顔を近づけてきた鷺沼は口角を上げて笑っている。また、わかっていないフリでもしているのだろうか。俺は「顔が近い」と言いながら椅子に浅く座る。

「率直に言うと、俺にとってここまで理解不能な奴はお前ぐらいだ」

「…ほー、なら藍澤だってそうだろう?」

「…俺?」

何故ここで俺の名前が出てくるのだ。鷺沼は愉快そうに話を続けた。

「まぁ、他人から見たら藍澤は俺よりも謎の人に見えるってことさ。俺からしたらわかりやすいけどね」

「いや、お前のが謎だろ」

「んー、いや、俺はわかりやすいよ。そうだな、雲に例えるとすれば下から見るのと実際に隠されるのとの違いかな。人からすれば「雨、降るだろうな」とかの合図だろうけど空からしたら「急に出てきた!!」って感じだろうね」

あぁ、成る程。つまり、俺からしたら鷺沼は驚きの存在でも他人からしたら「あぁ、またか」程度のことってことか?そうしとこう。頬杖をつく。空を見れば先程まで雲一つ無かったのに、今じゃお世辞にも晴れているとは言えない。もうすぐ、雨が降りそうだ。

「…帰るか」

「ん、そうしよう」

教室を出る。中には人一人残っていない。俺は隣にいる友人を見る。雨の神秘性とか意味不明なことを今は話している。小さく笑えば「ちゃんと聞いてる?」と怒られた。



END.

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