Novel

□ソラゴト
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人は誰でも嘘をつく。
自分を守るため。他人を守るため。悪い嘘。優しい嘘。
この世界は嘘で作られていると言ってもいいと、僕は思う。真実は、何%ぐらいあるのだろうか。もしかしたら、真実なんてないのかもしれない。

違う。

真実と嘘の区別がつかなくなっているんだ。
…僕みたいに。



「おはよう」

笑顔を顔に貼り付けながら言えば、相手も笑顔で返してくる。吐き気。これが自分に向けてなのか相手に向けてなのかはわからない。正確には、吐き気ではないのかもしれない。でも、

「なぁなぁ、烏間」

「…ん?なに?」

「あのなー……」

でも、笑顔さえ絶やさなければ自然に周りに人が集まってくる。人は何人かで固まっていなければ不安になる生き物だ。それは僕も同じ。
友人の話を軽く相槌をうちながら聞く。たったそれだけで満足そうな笑みを見せる。…なんて単純なんだろう。

「ねぇ、鳴瀬」

「…!!…な、なに?烏間」

「いや、なんにもないよ」

「そう…?」

「ああ、」

鳴瀬はいいな。わかりやすくて。嘘か本当かすぐわかるから。口許に手を持っていき笑みを隠す。ククッ、と喉が鳴る。そんな僕を不思議そうに鳴瀬が見詰めていたが、いつも通り笑ってみせれば安心したように目を逸らす。本当、わかりやすくていいよ。
周りをくるりと見渡す。嘘と建前で溢れてるのを感じ、喉が詰まるのがわかった。授業なんて受けてられない。教室から足早に出ると屋上へ向かう。いつもそこで気分が悪くなると寝る。別に、サボっているわけではない。屋上には大抵僕独りしか居ないから居心地がいい。けど、今日は違った。重たい扉を開ければ先客が居たのだ。自然と舌打ちをしていた。

「なに?何か不満でも?」

遠くからじゃわからなかったが、声は男のモノだった。

「いや、ただ単に俺以外の人が居ることに驚いただけだよ」

近付くと表情がわかった。 陰が出来ていて顔のパーツはよく見えなかったけど。まぁ、それは相手からしても同じだろう。

「…ふーん。キミ、いつもココでサボってるの?」


「違う。気分が悪くなったとき休みに来てるだけ」

「それがサボっているんだよ」

「…そうしたくてしてるわけではない」

なんとなく、彼の隣に座った。彼は初めこそ僕の方を見ていたが今はぼんやりと空を見上げている。その横顔は、凄く記憶に残った。何故だかはわからないけれど。
同じように空を見上げてみれば雲一つない。嘘。雲は一つだけあった。
そのとき、彼と話をしたいと思った。…違うな。友達になりたかった。気がついたら僕は、口を開いていた。

「…ねぇ、キミは何故ココに来たの?」

「可笑しな質問をするね。サボる為さ」

「いつも?」

「いいや。今日から」

話をしている彼の声は落ち着いていて、心地好かったのと同時に妙な気持ちになった。

僕は、本当に彼と友達になりたいのだろうか。

隣を見ればまた顔が陰になっていて、表情が読み取れない。反射的に目を細める。

「ふは、睨むなよ」

「睨んではない」

「どうかな。なら、何故そんな目をしてるんだ?」

「…何故……、」

何故と聞かれ、すぐに返事が出来ない。でも、それは数秒の間のことで、僕の口は既に動き出していた。

「太陽の光が眩しかったからだよ」

「成る程。確かに日射しは強いね」

手を翳しながら肯定した彼を見て、僕は安堵した。
何故?
まぁ、理由なんてわからなくてもいい。僕はすっ、と立ち上がった。

「そろそろ戻るよ。短い間だったけど、楽しかった。もう、ココには来ないよ。もう、キミの邪魔はしたくないしね」

綺麗な明るい笑顔にマニュアル通りの言葉。
この二つさえ揃えば友人関係なんてなんも不便なく廻る。今日の僕は完璧だと言っても良かった。それに、最後の台詞は本心のつもりだ。でも、彼の台詞でそれは簡単に崩れた。

「ふは、嘘だね。一ミリもそんなこと思ってないだろう?それに、明日もキミはココに来るよ」

じっと見詰めながら口許に弧を描く。
顔を見れば瞳は笑っているのかわかるが、それは出来なかった。絞り出した声は小さく。貼り付けた笑顔は今までで一番上手に出来た。

「そんなことないさ。全て本心。そして、僕は明日ココには来ないよ」

そのまま屋上から出る。全て完璧だった。けど、一つだけ悔やんだことがある。

「……彼の名前、聞いてなかったな、」
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