HAND
□がんばり屋さん
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夜ご飯の後、私はお風呂に入った。
『気持ち〜。補聴器の煩わしさから解放されるこの時間、サイコー!!』
水に弱い補聴器はハンカチでくるみ脱衣場に置いた。
『…なんか千鶴ちゃんに申し訳ないな…』
千鶴ちゃんはどうやら女の子の日のようで、入浴を断ったようだった。
『その日だからこそ、体を綺麗にしないといけないのに…さっさと上がっちゃおう』
『ふ〜さっぱりした』
私はお風呂から上がり、自分の部屋に戻った。
『…あ』
部屋の中に入ると千鶴ちゃんが
―「あ・い・う・え・お、か・き・く・け・こ…」―
自ら敷いただろう、二人分の布団。そのうちのひとつの布団の上で指文字をしていた。
『…千鶴ちゃん、指文字の復習してるんだ』
そのガンバル姿に私は嬉しくなった。
「チヅルチャン」
私が千鶴ちゃんを呼ぶと
―『桜ちゃん、おふろから上がったの?』―
覚えたての手話と指文字を使い、私に話し掛ける。
『まさか、江戸時代で手話を話す事ができるなんて…夢にも思わなかったな…』
私は千鶴ちゃんの出会いに感謝した。