HAND
□番外編:白い猫
1ページ/1ページ
にゃあ…
『ん?なんだ…』
大学の帰り道、弱々し鳴き声が聞こえた。
にゃあ…にゃあ…
辺りを探してみると
『…猫だ』
薄汚れた猫が電信柱を支えにして座っていた。
『…このままにしとくと確実に死ぬな…』
僕はその猫の近くに行き、その猫に触れてみた。
…にゃあ
猫は怖がる素振りは見せず、僕を見た。
「大丈夫だ。僕が君を保護するから」
そう言って僕は猫を抱えて、家に帰った。
「…ただいま」
僕は今年の四月まで暮らしていたアパートを引き払い、実家に戻った。理由は妹の事。
桜が行方不明になってから、母さんが生きる気力がなくなっている。
僕と父さんはそれを心配し、父さんは土曜日の仕事は辞め、帰りも早くし、僕はアパートを引き払って実家に長くいる事にした。
『でも…帰ってきても母さんは暗いまま。“ただいま”って言っても昔みたいな優しい笑顔で出迎えくれない…』
にゃあ…
腕の中にいる猫が心配そうに僕を見つめた。
「…今から体を洗うか」
そう言って、風呂場に向かった。
にゃあ〜…
「お客さん、痒いところはないですか?」
にゃあ!にゃあ!
体を洗われ、さっきより元気になった猫。
「おまえ、本当は白い猫だったんだな!」
埃や砂が取れて、本来の体の色が現れた。
「君は…かなりのイケメンだな」
金色の瞳に、白い毛並み。
こんなに綺麗な猫がどうしてこの町にいたのか疑問に思った。
「よし、綺麗になったぞ!さっぱりしたか?」
にゃあ!
元気良く鳴き、俺の頬を舐めた。
「や、やめろよ!くすぐったいだろ?」
にゃあ!にゃあ!
「も〜可愛い奴だな」
体をしっかり拭いて、風呂場から出た。
「あ、おかえり。父さん」
リビングに戻ると父さんがソファに座っていた。
「ただいま。…ほら、猫缶を買ってきたぞ」
コンビニの袋を差し出す。
中を見てみると子猫用の缶詰がたくさんあった。
「いきなり、メールで猫缶を買ってくれって…どれがいいか迷ったぞ」
そんな父さんに僕は笑ってしまった。
「ハハハ!父さんはこういう事には優柔不断だもんね」
「うるさいぞ。…その猫か?」
父さんが僕が抱える猫を見て言った。
「そう、あまりにも可哀想だったから拾ってきた。…桜も同じ事をしただろうし」
「…そうだな」
桜の行方はまだ分からない。メディアでも大きく報道される事はなくなった。
「…どこにいるんだろう…桜…」
「…生きている事が分かれば…少しは軽くなるんだけどな…」
僕は猫の頭を撫でながら言った。