HAND

□番外編:白い猫
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にゃあ…

『ん?なんだ…』

大学の帰り道、弱々し鳴き声が聞こえた。

にゃあ…にゃあ…

辺りを探してみると

『…猫だ』

薄汚れた猫が電信柱を支えにして座っていた。

『…このままにしとくと確実に死ぬな…』

僕はその猫の近くに行き、その猫に触れてみた。

…にゃあ

猫は怖がる素振りは見せず、僕を見た。

「大丈夫だ。僕が君を保護するから」

そう言って僕は猫を抱えて、家に帰った。



「…ただいま」

僕は今年の四月まで暮らしていたアパートを引き払い、実家に戻った。理由は妹の事。
桜が行方不明になってから、母さんが生きる気力がなくなっている。
僕と父さんはそれを心配し、父さんは土曜日の仕事は辞め、帰りも早くし、僕はアパートを引き払って実家に長くいる事にした。

『でも…帰ってきても母さんは暗いまま。“ただいま”って言っても昔みたいな優しい笑顔で出迎えくれない…』

にゃあ…

腕の中にいる猫が心配そうに僕を見つめた。

「…今から体を洗うか」

そう言って、風呂場に向かった。



にゃあ〜…

「お客さん、痒いところはないですか?」

にゃあ!にゃあ!

体を洗われ、さっきより元気になった猫。

「おまえ、本当は白い猫だったんだな!」

埃や砂が取れて、本来の体の色が現れた。

「君は…かなりのイケメンだな」

金色の瞳に、白い毛並み。
こんなに綺麗な猫がどうしてこの町にいたのか疑問に思った。

「よし、綺麗になったぞ!さっぱりしたか?」

にゃあ!

元気良く鳴き、俺の頬を舐めた。

「や、やめろよ!くすぐったいだろ?」

にゃあ!にゃあ!

「も〜可愛い奴だな」

体をしっかり拭いて、風呂場から出た。



「あ、おかえり。父さん」

リビングに戻ると父さんがソファに座っていた。

「ただいま。…ほら、猫缶を買ってきたぞ」

コンビニの袋を差し出す。
中を見てみると子猫用の缶詰がたくさんあった。

「いきなり、メールで猫缶を買ってくれって…どれがいいか迷ったぞ」

そんな父さんに僕は笑ってしまった。

「ハハハ!父さんはこういう事には優柔不断だもんね」

「うるさいぞ。…その猫か?」

父さんが僕が抱える猫を見て言った。

「そう、あまりにも可哀想だったから拾ってきた。…桜も同じ事をしただろうし」

「…そうだな」

桜の行方はまだ分からない。メディアでも大きく報道される事はなくなった。

「…どこにいるんだろう…桜…」

「…生きている事が分かれば…少しは軽くなるんだけどな…」

僕は猫の頭を撫でながら言った。
 

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