たんぺん
□dusty mauve
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分かってるつもりだった。いや、正しく言うならば、分かってたはずだった。お前はあい つが好きだけど、そいつはあいつが好きで、 そいつらは両想いだけど恐らく気付いていな い。そして俺は、お前のことが好き。
ドロドロした昼ドラみたいなこの関係は、気付いたらいつのまにか始まっていたような気がする。俺しか 気付いていないのか、それともみんな気付いているのか、そういった恋愛話は一切しなくなった。だから分からねぇし、これ以上関係を拗らせるのも良くないし。
だから俺も、この想いを告げるつもりもない。閉じ込めておければ、それで充分のはず、だったのだけれど。
「あたし、フラれたよ」
「……え、?」
「二人が両想いなのは、分かってた、んだけどさ? 少しだけ、期待してたんだよね」
俺から発されたのはなんとも間抜けなものだ った。そして理解するのに少しばかり時間がかかった。「いつ?」「なんて言って、なんて言われた?」「そのあとどうなった?」「二人の関係は?」聞きたいことがありすぎて、だけどそれは簡単に口に出すことができなくて、頭の中がぐるぐると疼いた。
彼女の顔は俯いていて伺えないが、きっと泣いてはいない、と、思う。
「あの二人、付き合ったんだって」
「……」
「一護は、気付いてた?」
「…ああ」
「…そっか、あたしも気付いて、た、」
彼女の肩が震えた。涙を流さないようにと下唇を強く噛み、強く握った掌からは血が滲み出そうなほど。それがあまりにも小さくて、 消えて無くなってしまいそうな気がして、気付いたら抱き締めていた。
シャンプーの甘い 匂いが鼻を霞める。ぎゅうっと強く背中に腕を回すと彼女から聞こえるのは嗚咽だけ。
「…泣けよ、気がすむまで。 お前が泣き止むで、傍に、居るから」
なあ神様、
どうして全員が幸せになることが出来ないのだろうか
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ダスティーモーブというとは、グレーみたいな濁った色のことみたいです(たしか…)