たんぺん
□あめのひ
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濡れないようにと傾けてくれる傘、自然と濡れる彼の右肩。
こんな感情、もう二度と要らない、必要ないと、そう思っていたのに。
だけど、心臓が、はやい。
「なんつうか、雨のあとって虹がすげー綺麗なんだよ
それ見たら、雨も悪くねぇかなって」
彼の話す言葉には、人よりも、重みがある。
ストンと胸に落ちて、それはいつまでも記憶に残る。
それはきっとあたしが特別視しているからなのだろうけど、それでも、彼の言葉に何度も助けられてきた
『虹、かあ』
肩が触れるこの距離が、低い声が、あたしの"嫌い"を"好き"に変えてくれる
(…雨、止まなければいいのに)
やっぱり、このひとが好きだ。
『…あ、ここ、バイト先』
「おー。帰りはどうするんだ?」
『お店の傘借りるよ』
「そうか、じゃあ、またな」
『うん、本当にありがとう!』
背を向けた黒崎くんが、左手をぶっきらぼうにあげて手を降った
だけど、なんだか本当の最後のような気がして。
『く、黒崎くん!』
思わず呼び止めた。
振り向いた彼が、首を傾ける。
『雨、好きになったよ!』
その言葉に、にっと笑った彼の顔が、キラキラと輝いていて。
あたしの心の中のもやもやが、すべて払われたような気がした
(雨の日が待ち遠しいよ。なんてね)