たんぺん

□あれから、これから
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 カラン。コロン。

 ストローでコップの中を掻き回すと氷の音がした。グラスに注がれているカフェオレはギンギンに冷えきっていて夏の暑さでやられそうな私を救うのには充分すぎるものである。
 ここのカフェオレは苦くもなく甘くもなく。この喫茶店のメニューで私のいちばんのお気に入りでもある。



『夏だなぁ』

「…なんだおまえ、いきなり、」

『んーとくにないんだけど、』

「変なやつだな」



 呆れたように笑う彼は私を一瞥し、それから再びノートに顔を向けた。彼のノートは数列や記号でビッシリと埋まっていて、頭がごちゃごちゃになりそうな公式をいくつも使って解いているようだった。
 もちろん文系のあたしには理解できまい。



『もう高校2年生だね』

「確かに、あっという間だな」

『去年の夏は色々あったね』



 6月くらいだっただろうか。突然死神と名乗る女がきたことから始まった。いやいや引き受けた代行だったけれど、良い方向に成長できたんだとおもう。
 きっとそれは、彼も、私も、思っていることだ。



「…なあ、杏。
きっと、死神になってなかったら俺たちそこまで仲良くなかったんじゃねえかって。
仲良くなれたのも好きになれたのも付き合えたのもルキアのおかげかもしんねえな、」

『うん…そうかも』

「俺もう死神じゃねえけど、おまえのことずっと護るから」

『………なに、いきなり、』

「…ンな照れた顔すんなよ…」

『って!照れてない!ばか!』

「ばかじゃねえよ!」



 赤くなる頬を隠して、耳まで赤くなった彼の顔をずっと見続けた。その仕草ひとつひとつが、愛しくて、にやにやと上がってしまう口角を必死で抑えた。



(…だって、わたしも、)



 いろんな景色をいろんな時間を、いろんな場所を。わたしもあなたと過ごしたいとおもうんだ



(…なーんて、言わないけどね)

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