連載長編「紡がれていくもの」

□chapter 021
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親指に触れず額にも触れずに着替え、というのは思ったより難しくて入院服を脱ぐのにもモタモタしてしまう。

やっと脱げたと思ったら、服が結んだ髪に引っかかる。


「いたっ…」

「どーした?」


カーテンの向こうで土方さんが立ち上がるのがわかる。


「あ、いえ…服が髪に引っかかっちゃって…」

「手伝うか?」

「結構です」

「……」


沈黙がこわい。


「入ってこないでくださいよ」

「入らねーよ」


どーだか。

土方さんが立ち上がったまま、そわそわ歩くから落ち着かない。


「綾さーん…って。なんでィ。土方さん、もう来てたんですかィ」

「別に早くねぇだろが、時間どおりだ」



「綾さん、着替え中ですか?」

「うん、もうちょっと」


シャー


総悟くんが躊躇なくカーテンのシャーをシャーして入ってきた。


「!?」


上半身は下着しか身につけてなかったので、慌てて枕で隠した。


「手伝いますよ、その手じゃ大変でしょ」

「だっ! いらない、いらない!」


かたわらに置いたキャミソールに手をのばす総悟くんの頬に平手打ちする。


そしたら総悟くんは大げさにため息をついてベッドに突っ伏した。


「綾さん、昨日はあんなに甘えんぼだったのに…」

「……」


それを言われると弱い。

叩いた頬をそっと撫でると、総悟くんはむくっと起き上がり、私の手をゆるく握った。


「ダメですぜ、土方さんと二人きりのときに着替えなんて。土方さんムッツリスケベなんだから危なくて仕方ねぇ」

「おまえのがよっぽど危ねぇだろが!」

「なんでィ、土方さんだって本当は構いたくてしょうがないくせに」

「あぁ?」

「昨日だって山崎に10分ごとに電話したりして…」


土方さんまでカーテンの中にはいってきて総悟くんを羽交い締めにする。

そのまま取っ組み合いが始まってしまった。


「あ、あの、二人とも静かに…」

「ちょっとォォ! 病院で騒ぐんじゃないわよ!」


騒ぎを聞きつけた看護師さんが病室に入ってきた。

問答無用に二人を捕まえて病室の外に放り出す。

すごい…


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