連載長編「紡がれていくもの」

□chapter 002
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目が覚めると、私は和室らしい部屋で布団に寝かされていた。

どうやら、治療はとっくに終わっていたらしく、障子の向こうは明るかった。もう日が高い。

病院…じゃなさそうだな?

いつのまにか、浴衣を着ていて、おそらく麻酔でかなり深く眠っていたのだろう。

人の気配を感じて顔を室内に向けると、枕元には見知らぬ男性二人と沖田さん。


「…沖田…さん」

呼びかけに気づいた沖田さんは、私を見てふわりと頬を緩めた。


「おはようごぜーます。」

「おはよう…ございます」


「目が覚めたか?気分はどうだ?」


一番、枕元にいた大柄で彫りの深い顔の男がそっと尋ねてきた。


「大丈夫…みたいです」

「左肩は打撲と裂傷、左足首は8針縫ったそうだ。ほかにも擦り傷があったが、たいした事はねぇ。
全治7日だとさ。この薬、痛み止めと抗生物質だから飲んでくれ」


起き上がろうとしたら、もう一人の目つきの鋭い男性が、楽なように背中に丸めた布団を当ててくれた。

ペットボトルと錠剤を差し出され、手をのばしたが、指先が震えてうまくペットボトルが持てない。
困っていたら、口元までペットボトルをあててくれてなんとか飲めた。
随分のどが乾いていたようで、水がすごく美味しく感じる。


「ありがとうございます」

「ん」


私の様子を見てから、3人は居住まいを正した。


「友永さん。昨日はバタバタしていたから、改めて挨拶させてくれ」


つられて私も傷む身体を叱咤しながら姿勢をただす。


「あ、楽にしていいからね。傷に触るとよくないし」


一番枕元の彼がわたわたと慌てて気遣ってくれる。
なんだか愛嬌のある人だな、顔もなんだかゴリ…、いやとても野性的だ。


「すみません。こんな格好で…」

「いやいや、気にしないで。じゃ、自己紹介ね。俺は真選組局長の近藤勲だ。隣の彼は副長の土方十四郎。」

「よろしく。」

「その隣は…もう知っているね、君を助けた沖田総悟。一番隊の隊長だ。」

「ども!」


スッと懐に入ってくるような、太陽みたいに朗らかな近藤さん。対照的に、月みたいに淡々とした雰囲気の土方さん。
飄々としててとぼけた雰囲気の沖田さん。
それにしても土方さんと沖田さん。すごく男前、クールビューティーと美少年といった感じでホント眼福だ。


「ところで、アンタの荷物らしきものが現場にあったんで回収してな。申し訳ないが中を改めさせてもらった」


状況が状況だから仕方ないだろうと、私は頷く。土方さんは私の鞄に入っていた黒いパスケースを私に手渡し、目で確認を促した。


―― 防衛省 陸上自衛官身分証明書
   階級、三曹
   氏名、友永綾


裏を返せば、左右の指の指紋や目の色、頭髪の色といった身体情報。


「私の持ち物です…」

「改めて聞いていいか?アンタの名前や職業。住所。」

「はい。名前は友永綾です。陸上自衛官。兵科は武器科、階級は三曹です。東京のN駐屯地所属で住所は*********」

「間違いねぇんだな。これ自体偽装なんてこたぁ…」


ゾッと寒気がするほど、鋭い視線で問われた。疑いをはらんだけんのんな空気。


「ありません。」


あえて目をそらさず、はっきり答える。土方さんと近藤さんは視線をかわして、やや逡巡したように見えた。

「…確認していただいて構いませんので、基地に連絡させていただいてもよろしいですか?」

「その手帳に書いてあるN駐屯地ってとこに、昨日から何度も電話してみたがかからなかったんだ」

「え……」

「落ち着いて聞いてほしい」




そういって、彼らはここが江戸という都市である事、ここも地球と言うらしいが、
私のいた地球とは異なる事を完結に説明してくれた。

武留宇巣教のあの施設で、ブラックホールの発生装置が見つかった事。
以前から怪しい噂が絶えなかったが、数週間前から、大小様々な荷物が搬入されているのを真選組の密偵が確認し、強制捜査に踏み切ったこと。

私の倒れていた場所にあったアスファルトやら電柱やらは、この星のそれらと若干素材が違っていた事。

ここでは宇宙規模で多くの星々と交易していること。宇宙人を天人と呼び、江戸で暮らしている天人も多いこと。
私のいた地球とこの星は交流はなく、資料も見当たらず、現状ではいかんともしがたいという。


つまり私が宇宙人…もとい天人っとことか??



「…………」

「綾ちゃん?」

「……………………」

「おーい。綾ちゃん!!戻ってきてェエエ!!」


呆然というか、一瞬気が遠くなった私の肩を近藤さんがガクガク揺らす。


「いだだだだ!痛い!痛い!」

「お。近藤さんがちょこっとエスに目覚めた」

「アホか総悟!オイィィ、けが人になにやってんだよ、落ち着け。近藤さん」


土方さんと沖田さんが近藤さんを羽交い締めにして、私から離す。痛い…半端なく痛い。左肩、これ打撲?


「あ、ごめんごめん!」

「ドンマイ、近藤さん。痛みで正気に戻ったようですぜぃ」

「そうか!よかった!」

「いーのかよ!」


3人のコントみたいなやりとりのおかげ(?)で部屋の空気がゆるみ、私は苦笑したあと、フッとため息をついた。


「私のいた星…地球はどこにあるかわからないってことですね。」

「今のところはな。専門の部署に確認を急がせてるが、宇宙にゃ天文学的な数の星がある。そうすぐには…」

「まぁ…そうでしょうね。」


いきなり外国(外星?)に拉致られたようなものだ。交流がないんなら日本大使館なんてあるわけないし。

帰国の目処が立つまで…いや、立つのか?わからないけれど。

その間、どこかに保護を求めるべきなんだろう。


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