連載長編「紡がれていくもの」
□chapter 008
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江戸に来てから3ヶ月の月日が流れた。
季節は移り変わり、もうすぐ冬の足音がきこえる。
「もう」と言うべきか「まだ」と言うべきかわからないけれど、確実に時間は流れてるんだなぁ… なんてのんきに考える。
真選組で女中仕事を手伝い始めそれなりに貯えもできたから、非番の今日、思い切ってひとりで出かけることにした。
前日にそう伝えたときは、さんざん渋っていた土方さんだけれど、いざ出かけるとなったら玄関まで見送ってくれた。
「行ってきます、あんまり遅くならないように気をつけますね」
「おぅ、気ぃつけろ。これ、お前用の携帯電話な」
「やる」と目の前に突き出されたけれど、さすがにもらう訳にはいかない。理由が無い。
「い、いただけませんよ。携帯なんて! 必要なら自分で…」
「なんだ? 発信器の方がいいか?」
「……携帯電話でいいです」
受け取って確認すると、土方さん、近藤さん、隊長格の人、女中さんの番号が登録済みだった。
女中さんたちと携帯でやりとり出来るのは便利だな。お礼を言って巾着にしまう。
「なんかあったらすぐ電話すんだぞ」
「はい」
「綾さん、コレも持っていってくだせぇ」
パタパタと足音が聞こえて奥から総悟くんもやって来た。手渡された物を見てギョッとする。
「総悟くん。…これ何?」
「スタンガンです、護身用に」
「……」
「総悟、テメー何でそんなもん持ってやがる」
「まぁ、そのへんはΧΧΧΧ…」
…過剰防衛になるってば。
何、100万ボルトって。
「や、重いし。気持ちだけ受け取っておくわ」
「そうですか……じゃあせめてこれだけでも」
ゴソゴソと懐を探る仕草に、今度は何が出てくるんだと内心ビビって土方さんの後ろに隠れた。
「オイ、なんで俺を盾にする?」と背中の後ろから追い出されそうになったけれど「貴方の部下でしょうが、ちゃんと教育してくださいよ」と私もゆずらなかった。
「お二人とも、なぁにビビってんですか。防犯ブザーですよ」
「俺ぁビビってねーぞ。ビビってたのは綾だけだ」
嘘つけ、土方。
「ここを押せば真選組にも知らせが入りやす」
「へぇ便利だね、ありがとう」
はじめっからこっちが欲しかったな、うん。
それから土方さんに、昨日聞いた注意事項をあらためて聞かされてやっと解放された。
屯所の門で歩哨の隊士さんに挨拶をしてから、外に足を踏み出すと心地よい風が頬を撫でていく。
警護対象では無くなった今、そこまで心配しなくてもいいだろうと思うけれど、今までのクセは急に抜けないのかもしれない。
ずっと一緒にいてくれたもんなぁ。
江戸に来てひとりになるのなんて初めてで…変なカンジ。
すごく自由ですこしさみしい。
こっちにきて私は少し弱くなった気がする。
だけど、それが不思議と嫌ではなかった。
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