連載長編「紡がれていくもの」
□chapter 016
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先日の騒動からひと月がたち、屯所内にようやく落ちつきが戻ってきた。
皆と違って基本9時-17時で働く私は、今日の業務はつつがなく終了。
掃除を済まして整備室で日報を開く。
「天気…天気は、曇りっと。雪降りそうじゃん。やだなー」
窓の外は曇天の空。
暦のうえではもうすぐ春とはいえ、江戸はまだまだ寒い。
「快援隊の陸奥さんとメール…。スタングレネード弾、まずは1ダース発注っと…」
快援隊は星間貿易を営む企業で、普段は船で宇宙を渡り歩いている。
先日、たまたま地球に来ていた陸奥さんを銀さんが紹介してくれて知り合った。
ホント顔が広い人。
そんなことを考えながら日報を記入していたら、懐の携帯が振動する。
取り出してみたら…
「あ、銀さん…」
珍しい…
電話とかメールは好きじゃないみたいで、あまりしてこない。
「はい、友永です」
『綾ちゃん? あのな…』
「?」
いつもの口調と明らかに違うことをいぶかしむと、銀さんは言葉を選ぶように逡巡しながら話し始めた。
『あー…、さっき馴染みの医者から連絡あってな。
宇津木さんに身体的特徴が似た人が、大怪我で病院に運び込まれたっつうんだ』
「!」
全身が凍りつく。
一瞬、目の前が真っ暗になった気がした。
手に嫌な汗が滲みだす。
『綾ちゃん?』
「それで…?」
『まだ確定じゃない。
身元のわかる物を身につけてなかったみてぇで、まずは綾ちゃんに確かめてほしいんだ』
「わかりました、銀さん…今どこ?」
『もう屯所につく』
着替える事さえもどかしくて、作業服のまま足早に外に出る。
「綾ちゃん、こっち!」
屯所の門の前で、スクーターに乗ったままの銀さんがこちらに手をふった。
「銀さん!」
「とりあえず乗って。すぐ病院行くぞ」
「お願いします」
渡されたヘルメットをかぶり銀さんにしがみつくと、スクーターはすぐに走りだした。
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