連載長編「紡がれていくもの」

□chapter 003
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「お〜い、トシ!こっちこっちー!」


食堂はすでに多くの隊士で賑わっていて、空いている席を探していたら近藤さんがぶんぶんと手を振ってくれた。

「メシとってくるから。近藤さんのところに行ってろ」と促され、座っている彼に近づいていくと、総悟くんもいて、二人とも私を見て「おぉ!」と大げさに驚いた。つられて私も驚くくらい。


「綾さん、着物似合いますねぇ。別人でさぁ。」

「いやぁ…驚いたなぁ、一瞬わかんなかったよ。」

「本当ボロボロでしたもんねぇ、私。」

「顔色もだいぶ良くなってますぜ。ホラ、座りなせぇ。」


総悟くんが隣の席を引いて座らせてくれて、ワイワイ話をしていると、土方さんがご飯をのせたトレイを持ってきた。


「ホラよ」

鶏の唐揚げ、野菜の煮物、具だくさんのお味噌汁、香の物…目の前に置かれたご飯は、ほかほかに湯気をたててそれはそれは美味しそう。

いただきますと手を合わせ、さっそく食べ始めたら見た目通りすっごく美味しい。里芋の煮物はほのかに柚子の風味がきいていてやさしい味がする。

感動して味わっていたら、斜め向かいからブチュブチュと耳障りな音が聞こえたので視線を向けると、土方さんがありえない量のマヨネーズを唐揚げにかけていた。


「…!?」


ギョッとしてつい箸をとめて凝視していたら、土方さんと目が合いご丁寧にマヨネーズを差し出してくれた。


「マヨネーズかけるか?」

「い…いえ…」

「そうか?うまいぞ」

「土方さん。綾さんに犬のエサ勧めるなんて暴挙やめてくだせぇ」

「テメ!総悟!マヨネーズばかにすんじゃねぇよ!」

「おい、よく聞け綾。アンタの世界にはなかったかもしれねぇが、これはマヨネーズと言ってな。この世のあらゆる食べ物に合う素晴らしい調味料だ、栄養も満点だし、ぜひ食ってみてくれ。」

「……」


キラキラした曇りない目で、私のお皿にマヨネーズをかけようとする土方さんを総悟くんがトレイで防御してくれる。

マヨは嫌いじゃないけれど、程度ってもんがあるだろうよ。私をマヨラー土方から守ってくれる総悟くんが王子様にみたいに輝いてみえた。


「ひでぇ事すんじゃねーよ、土方。綾さん、騙されちゃいけやせんぜ。あんなもん食ったら腹ぁ壊します。」

「んだと、コラぁぁ!!」

「コラコラ、喧嘩しちゃいかん。仲良く食べなさい。綾ちゃんがビックリしてるじゃないか。」


立ち上がって抜刀しかねない勢いで睨み合う二人を、近藤さんがのんびりした声でたしなめる。二人はしぶしぶといった態で腰を下ろし、食事を再開する。


「綾ちゃん、勘弁してやってくれな。トシも悪気はないんだ。世界中の皆がマヨネーズを好きだと思ってるだけなんだ。」

「近藤さん、聞こえてる!」

「あ、あの…好みは人それぞれですもんね。好きなモノがあるのはいい事ですよ。」


マヨネーズを全否定された土方さんが、釈然としない表情だったから、おもわずフォローしてしまった。

人の嗜好にもの申すほどヤボじゃないし、マヨネーズが好きくらい常識の範囲だろう…。

ただし、他人に迷惑かけなければの話だけどな!

その後もなんやかんやと小競り合いしながらも楽しい夕餉の時間を過ごした。

土方さんのライターがマヨネーズ型だったのがよぉくわかる、たいへん有意義な時間だった。
そして、騒がしい食事が終わりトレイを返却したところで、近藤さんがパンパンと手を鳴らして私を隣に立たせた。


「はーい。みんなコッチに注目〜。」


ざわざわとしていた食堂内がシンと静まり返り、みんなこちらに注目している。


「今日、ここに残ってもらったのは、紹介したい人がいるからでな。彼女、友永綾ちゃん。」

「昨晩ガサ入れした、武留宇巣教の一件で唯一の目撃者だ。あそこは攘夷派の資金調達係としても暗躍していて危険だからな。しばらく真選組で匿う事になった。みんなよろしくしてやってくれ。」

綾からも一言どうぞ、と促されて、緊張したけれど挨拶した。


「初めまして。友永綾と申します。突然の事で皆さんにはご面倒をおかけしてしまいますが、どうぞよろしくお願いします。」


深々とお辞儀をしたら、なぜか拍手がおきて照れてしまった。
近藤さんたちがある程度の根回しをしてくれてたのだろう。隊士のみなさんは食堂からぞろぞろと退出しがてら、それぞれ声をかけてくれる。

パッと見、チンピラみたいに柄の悪い彼らはとても暖かく私を迎えてくれたのだった。


そうして真選組屯所での、長い一日が終わりを迎えた。


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