連載長編「紡がれていくもの」

□chapter 006
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案内されたのは屯所内の資料室。今は私たちふたりだけしかいない。

ロッカーを開けてゴソゴソと何やら取り出した総悟くんは、振り返ってそれを私の目の前に掲げた。


「え? これ…ドッグタグ…」

「あの瓦礫の中から見つけやした」


そっと手のひらにのせてくれて、私は食い入るように見入る。



『JAPAN GSDF』

Ground Self-Defense Forces……陸上自衛隊…


『AKIHIRO UTSUGI』

…アキヒロ ウツギ…



「宇津…木……明宏…」


カタカタと手が震えだし、身体中の体温が急速に落ちていくような気がした。


「隊長…」


総悟くんがそっと私の手をひいて抱き寄せてくれた。

苦しいくらい、強くしっかり、まるで支えるように。


「他に…何か…」

「いえ、何も。」




「…血痕や、人が瓦礫から抜け出したような形跡は、ありやせんでした。」

「そっか……そう」

「綾さん…」

「…………」

「…大丈夫、ですか…?」

「………ん」

「綾さん?」

「…うん、大丈夫。……大丈夫だよ」


総悟くんの腕の中で、ドッグタグを見つめていてある事に気がついたから。

チェーンが切れていたけれど、その切れ目は偶然切れたものではなくて。

あきらかに故意に引きちぎった跡だった。



多分、宇津木隊長は咄嗟にコレを引きちぎって、私の方へ投げた。



それが意味するところに、私はわずかながら希望を持つ。

ほんの微かで微弱な光だけれど。今はそれにすがりたい。




顔をあげて総悟くんに心からの感謝を伝える。


「ありがとう。これ、ずっと探しててくれたんだね。」

「あのときの綾さんを見ちまったら、探さずにはいられねぇよ。」

「総悟くん…」


「すっげー情けねぇツラしてましたぜ。」

「…悪かったわね」

「…アンタみたいな強情っぱりが、人前であんなに情けないツラさらすなんて、よっぽどのことだろぃ」

「強情……」

「満身創痍で足からダラダラ血流してんのに、立ち上がろうとしてましたからねぃ。無茶苦茶だ。」



いつもより少し柔らかくて穏やかな彼の声が心地いい。


本当にありがとう。


あるかもわからない物証を探すのは、すごく大変だったに違いないのに、飄々と軽口をたたく。



「ま、ダメモトで総ざらいしたんですが。綾さんがそんなふうに笑ってくれるなら良かった。」

「…うん」


私は総悟くんの気持ちが嬉しくて、でも照れてしまって彼の顔を見る事が出来なくなった。


総悟くんは、ドッグタグから目を離さない私の前髪をしばらくいじっていたが、そのまま前髪をよけて額に口づけた。


「!?」

「ご褒美。いいでしょ、このくらい」

「なっ…おばか!」


思いっきり両頬をつねってやる。


「痛ててて!!!」

「痛くしてんだよ」


両手首を掴まれて、お仕置きは強制終了。


「嫌でしたか?」

「そーゆー問題じゃありません」


全く反省の色が見えない総悟くん。

私は自分の手首をひねって、即座に彼の両手を掴み返し、後ろ手に拘束した。


「ありゃ。綾さん、やりますねぃ。捕まっちまった」

「反省しない子にはソレ相応のお仕置きが必要だよね」

「……え゙?」



総悟くんがギブアップするまで思いっきりくすぐってやった。


ザマミロ。



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