狐の落描き

□弐
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青年達は忍の格好(らしい)をしている方が猿飛佐助、赤い方が真田幸村と名乗られた。

有名人だなーと思ったがあまり気にしないでおく。


二人に俺は宣言通り洗いざらい全部話した。



「なるほど…」

「うん、面白い話だったよ」

『……猿飛さん、明らかに信じてないですよね』



まぁ、信じろって方が難しい。

このくらいなら想定の範囲内だ。



「しかし、その力があるなら帰ることも簡単なのでは?」

『んー…まぁ出来るけど……たぶん道具が無いんで』

「道具?」

『未来にはここより発達した絵を描く道具があったから、時間とか越えるくらい力を発揮したんだと、思います』

「そうか、こちらにはそれだけ見合う物があるか…」



真田さんは案外信じてくれているようだ。
少し戦国乱世を生きるには実直過ぎる気もするが、この状況ではありがたいことこの上ない。



「まぁ、それならいきなり武田の領地に入り込んだのも頷けるけど……」



猿飛さんがうーんと疑いの目を向ける。



「その力って、今見せられる?」

『…はい、まぁ。書くものさえあれば』

「なんと!是非見てみたいでござる!!」



そしてどこから出したのか、猿飛さんが筆と既に墨の入った硯を目の前に置いた。

わー凄いさすが忍だー(棒)



『そんなに…凄いもんでも無いですが』

「大丈夫大丈夫、あんまり期待しないでおくからさ」



プレッシャーが余りないのは嬉しいが、それはそれで悔しいのは何故だろう。

真田さんの方はかなり期待しているらしく目がキラキラしている。



『なんか……やりにくいなぁ…』



聞こえるか聞こえないかというくらいで言って、筆を墨に浸した。
そして硯と筆を両手に持って立ち上がる。


適当に描く場所を探して、さっき真田さんにぶっ飛ばされて畳の上に転がったままの襖に目をつけた。


『……これ借ります』

「あ、うん」



筆を白い和紙に走らせると、スラスラと指が動き出す。

和紙はいつものキャンバスより表面がざらついていて描きにくかった。


どうせ墨は重ね塗りも出来ないから落描きでいいか。



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