狐の落描き

□弐
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おそらく、五分もかからなかっただろう。

筆を止めて二人を呼ぶ。
絵はまだ完成していない。

あと一ヶ所を除いて。

目の前でその一ヶ所を埋める。


『これで、完成…』





"出ておいで"






そう念じれば、いや、思考を巡らせば、シュルリと空気の間を分けるようにそれが現れた。


パタパタと羽を羽ばたかせて真っ白な鳥が飛び立つ。
鳥は部屋を少し巡回した後、俺の肩に留まった。



「……まさか、本当にやっちゃうとは…」



隣で猿飛さんが言った。

真田さんはというと、一拍間を置いて、パアッと眩しい程の笑顔になる。



「凄いでござる!!」

『そう、ですか…?』

「そうでござる!この鳥、触ってみても?」

『いいですよ』



そろそろと手を伸ばして鳥の背を撫でる。
白い毛並みがフワフワとしており、いかにも気持ち良さそうだ。



『…信じてくれましたか?』

「ん〜、流石に目の前で証明されちゃったらね」

「そうだ、貴殿は確か突然こちらに来たと申しておりましたな。
もし宜しければ、戻れるまで一時武田に身を置いては?」

『あー…え?』

「え?」



猿飛さんと一緒に頭に ? を浮かべる。

つまり………どういうことだ。


『あの、え?』

「行く宛が無いのであればここに留まるといいでござる」

『でも』

「いやいや駄目でしょ!?
それに親方様だってこんな怪しい子駄目って」







「良かろう!」







「「!!!!」」



そういえばさっきから気になってたんだが、このドでかいおっさんは誰だろう。
二人は今まで気付かなかったらしいが、俺が絵を描いてるのを二人の後ろで一緒に待っていた。

この人に見られながらは本当に描きにくかった。


威圧感が半端じゃなかったから。


「お、親方様!?いつの間に!?」

「ってえぇ!?良かろうって…」

「御主の事情は分かった。好きなだけ留まるがよい!!」



二人の言葉を華麗にスルーして通称 親方様は俺の頭を鷲掴みににする。
そのままガックンガックン揺らされて首が引きちぎれそうになった。

これ、もしかして頭を撫でているのか?



「親方様駄目ですって!
旦那とは体の作りが違うんだから!」

「おお、すまんすまん!」



そう言って手を離すが、その旦那とやらはどんな体の作りをしているんだろう。

全身鉄で作られてるのか。



「ではさっそく部屋を設けよう。
佐助、空き部屋はあったか」

「そういうのは女中の方が……あーもう!
分かりましたよ探してきますよ!」

『あの、俺は庭に放っておいてくれれば充分なんで』

「客人をもてなすのもまた一興というもの。
何、遠慮せずともよい。
幸村は着物を貸してやれ。
この服では目立って仕方あるまい」

『は、はぁ…』

「了解しましたぞ!!親方さぶああぁぁあぁ!!」



叫びながら真田さんは部屋を出ていった。
つまり俺は親方様とやらと二人きりにされてしまった。



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