狐の落描き

□参
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どうやらこちらでは携帯は死んでいるらしく、画面は真っ暗になっている。

携帯が使えないと思うと何故こうも絶望感が漂うんだろう。


ポケットに突っ込んでいた物がいくらかあったがあまり役に立ちそうな物は無かった。

携帯以外にあったのはデッサン用の短い鉛筆が二本と抹茶飴、家の鍵。


鉛筆があるのはちょっと使えるかな…。


ちなみに俺の部屋にはまだ何も置いておらず、机が部屋の角にぽつんと置いてあるだけだった。
当たり前か。



「よっ、おはよー紳士の旦那」

『…………はよ…ざい、ま……』

「まだ微妙に起きてないねー」



ちなみに現在、昨日の次の日の朝。


朝が苦手な、というより起きるのが苦手な俺は布団にくるまっている。

布団をはぎ取られた。



「ほらほら起きてー」

『んー…』


もう一度布団に戻ろうとする俺を猿飛さんが捕まえる。

そのついでにはだけた着物を直された。



「…紳士の旦那って色白だよねー」

『……そんな変わらないと思いますが』

「いや白いよ?俺様とくらべて見てみなって」



腕を並べてみる。



『………誤差の範囲だな』

「いや明らかに色違うから!!全然旦那の方が白いから!!」



そんなものは目の錯覚だとバッサリ切り捨てて、ぐうっと伸びをした。

そういえば、と俺の帯を結び直しながら猿飛さんが口を開く。



「俺様は佐助って呼び捨てでいいし、敬語も堅苦しいからなくていいよ」

『ん…了、解……』



立ち上がったはいいがまた眠くなってきた。



「ち、ちょっとちょっと」

『…………zzz』

「また寝てる!?」



猿飛さんに寄りかかった状態で再び睡眠。
肩を揺すられてハッと目を覚ました。



「もう朝餉の準備出来てるから行くよ?起きてー?」

『……飯』

「そこは反応するんだ!?」



勿論だ。だって飯だから。



猿飛さん…もとい佐助に引き摺られるようにして廊下を進む。
歩くの面倒。

引き摺られている途中、ちょうど通りすがった部屋から真田さんが現れた。
既に着替えており、寝起きとは思えない程キリッとしている。

そういえば昨日、毎朝槍の稽古をしてるって言ってたっけ。



「おはようございまする!紳士殿!!」

『……はよ、ざいます…』



さっきよりだいぶん冴えてきた頭を下げる。

かろうじてそれだけの単語を絞り出して大人しく佐助に引き摺られていった。



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