長編置き場

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飛段は今背中を丸め、どうやって辿り着いたかすらわからない荒野を横断していた。ひゅるひゅると唸る風以外に音はなく、じりじり照りつける太陽に大粒の汗が顎から滴る。肌が焦げるのを防ぐために纏っているローブのような布切れは飛段の体を熱し、かくじつに体力をすり減らしていた。もう何日、あてもなく彷徨っているだろうか。
平和ボケした里に飛段の苛立ちは最大級まで達し、ジャシン教への入団を決定付けさせた。そこで飛段は実験体となり、幸か不幸か不死の肉体を手に入れた。そして飛段は、里で大暴れして混乱を起こし、里からの絶大な怒りと恨みを受け取り里抜けしたのである。

しかし、はっきりいって、飛段は行き詰まっていた。ジャシンに全てを捧げるのが彼の目的であり生きる意味、存在する理由なのだが、具体的にこれからどうしようという考えが全く浮かばない。元来物事を深く考えようとしない飛段は手始めにどうしたら良いのか、計画すら立てていなかった。

ふらふらと荒野を彷徨ってはいるものの、行く宛てどころか元々気持ちだけだった資金も底をついている。ここ5日ほど、食料や水なんて贅沢なものはなく、口に入れたものは空気だけだ。
飛段はのろのろと辺りを見回した。からからに渇いてひび割れた大地に、もう長いこと葉をつけていないのだろう枯れた木が憎らしい程青い空に風化した枝を伸ばしている。


いくら殺しても死なない身とはいえ元を断ち切れば…つまりこのまま何も食べなければ、栄養をとらなければ死ねるのではないか。
ふとそう思った。
今まで何度も死に目を迎えた。その度に再生し、繋いで、生き延びた。どんなに傷ついても、死なない。死ねない。飛段は既に生への執着というものを捨てていた。











このまま死のうか、死んで楽になろうか。





そんなことを悶々と繰り返して考えていたその時、背後から風を切って何かが飛んでくる音が聞こえた。


「……ッ!?」


人間、生気は無くとも危機は避けたがるものらしい。本当に反射的に体を傾けると、刺さる筈の目標を失ったそれ…磨かれた鋭いクナイは正面の岩に弾かれ、渇いた地面にカランと転がる。それを確認する間も無く、今度は先ほどより更に多い数のそれが飛段へと襲いかかった。

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