長編置き場

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本能的に避けきれないと悟った飛段は背中に背負った三連鎌を抜き、大きなモーションでそれらをガードし、弾き飛ばした。金属同士のぶつかるキキィンという音が続けて響き、その飛んできたクナイは先ほどと同様に地面へと転がった。
飛段は鎌に手をかけたままそれを見届けてから、目前の男たち____言わずもがな、今しがたクナイを投げてきた連中である____をぎろりと睨みつけた。手下が二人と強そうな主格の男が一人。気配を完全に消していたところを見ると中々の手練れらしい。
まさか湯の里の追い忍かと身構えたが、よく見ると忍のシンボルであり里に忠誠を誓った証の額当てには横に一本傷が入っており、どうやら里抜けしただけでは飽き足らず、賊にまで落ちぶれた連中のようだ。てっきり里から追っ手が来たのかと思って警戒した飛段は(それでも普通は警戒するに越したことはないのだが)拍子抜けしてあっさり警戒を解いた。
すると飛段のその仕草を見て嘗められたと思ったのか、敵たちは持っていた武器をかちゃりと鳴らした。


「命が惜しければ身包み置いて消え失せろ。今なら無事に帰してやる」


主格の男が冷静にそう言った。里の上忍かそこらだったのか、やけに命令慣れしている様子だった。
しかし飛段には今、そんなことはどうでも良かった。飛段は主格の男の台詞に呆気に取られていたからだ。
この男は今、自分に命が惜しければと言った。命が惜しい?何度天に向かって死にたいと呟いたかわからない自分が?

そう考えているとだんだんおかしくなってきた。不死の自分に命が惜しいか尋ねるなど、愚の骨頂だ。ついに堪えきれなくなった飛段は腹を抱えてげらげらと笑い出した。
いきなり笑い出した飛段にはさすがの賊たちもギョッとしたようだ。それもそうだろう、今まで脅し、戦い、金品を奪ってきた者たちは揃いも揃って泣いて命乞いをしたり逆上して反撃してきたり自らの力を過信し敗れていった者たちばかりだったのだ。このように、狂った笑い声をあげた者など、1人とて居なかったのだろうから。
ひとしきり爆笑した飛段は笑いすぎて滲みでた涙を拭い、唖然としたままの表情の賊へその目を向けた。


「はー……いや悪ぃ悪ぃ、命…命ね、ぶっ…くく…」

「……どうやら見た目だけでなく脳みそまで軽いらしいな」


未だにけたけたと笑う飛段に苛立った手下2人が切りかかろうと武器を構える。それを片手で制しながら男がこちらを鋭く睨みつけた。冷静な態度をとっているものの額には青筋が立っており、随分とプライドが高いらしい、馬鹿にされたことに相当立腹しているのが見てとれた。


「命…、ハッ……惜しいワケねえだろ、バーカ」


飛段が言い終わるや否や、先ほどより速さを増したクナイが飛段の目の前に飛んできた。間一髪で避ければ、主格の男が放ったそれが合図だったのか、手下が左右に別れた。どうやら数で攻めてくるつもりらしい。主格の男が腰に差した刀をスラリと抜き、飛段の元へ切りかかった。振り下ろされるそれを右に躱し、その反動で左足を男の右頬に叩きつける。しかし腕でガードされ、背中を向けた左側から手下の投げた手裏剣が飛んできたので飛段はその場から飛び退いた。
敵は相当訓練してきたのか連携が上手い。これは長期戦になるとこちらが不利だ。早く片付けてしまわないと、と飛段は攻撃を避け、錆びついたように回りにくい頭を回転させた。
儀式をすれば早いのだが、こうも邪魔されては陣が描けない。それに描けたとしても対象が1人でなければやりづらいのだ。
どうしようか考えながら飛段は左右から飛んでくる飛び道具を避けつつ正面から襲いくる斬撃を躱した、その時。


ザシュッと聞き慣れた、肉の切れる音がした。
しかし、自分は今攻撃していないし、敵も傷付いていない。自分も敵の攻撃は完璧に避けたはずだ。

視界の隅に、鮮やかな赤が、飛び散る。それは飛段の、右の二の腕の、真ん中辺りから滴っていた。
そこから先の腕は、数歩先に、それと思わしきものが転がっていた。

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