長編置き場

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心臓ひと突き…ありゃ死んだな




誰だか知らないけどご苦労なこった、と飛段は薄らとした意識の中、そう思った。
男の体が倒れる。あ、ぶつかるなとまた飛段が思った瞬間、心臓を刺されたはずの男が倒れかけたところで踏み止まり、体を捻って後ろにいた手下の頭をガッと掴んだ。


「「!?」」


その様子を見ていた飛段は驚きで思わず声をあげてしまった。それでも目の前の男が気付かずこちらを見なかったのは、同じタイミングで手下の男も驚いた声をあげたからだ。
手下が動揺を隠しきれないまま目を見開く。それもそうだろう、確実に急所を貫いたはずの男がまだ生きているどころか、自分に反撃しようとまでしているのだから。
手下が慌てて刀を男から抜き去った。穴の空いた男の胸からブシュリと鮮血が噴き出す。その色が普通の人間と同じ赤色だったことに、飛段は違和感を感じたほどだった。
手下が男から刀を抜いて、何がしたかったのかはわからない。ただ痛みで怯ませようとしたのか二撃目を仕掛けようとしたのか、はたまた逃げようとしたのか。



しかし手下はどの行動も実行することは出来なかった。何故なら刀を抜いて次の行動に移る間もなく、男の手が掴んだ手下の頭を、地面にそれは深く叩きつけたからだ。
水気のない地面に、ドゴッという音と共に手下の頭が沈められる。ヒビが入るほど渇き固まった地面は相当な硬さの筈だ。ばきばきと飛び散る土の中、手下は悲鳴をあげる余裕さえ与えられず絶命した。


硬い大地に人間を沈ませられるなどよほどの怪力だろう。だがそれよりも飛段を驚かせたのは、その心臓を貫かれたはずの男がなお生きており、動いていることだった。
男は今しがた命を奪った手下に見向きもせず、外套の裾をパッと祓った。体を貫通して外套の左胸に出来た小さな穴をちらと見てから、チッと舌打ちをしている。男が少し動く度にそこからはドクリと血が吹き出た。



何故この男は生きているのか。心臓を刺されて、まだ死なないのか。これではまるで不死身ではないか。
彼は自分と同じ不死なのだろうか?急所を刺されて死なないなんて不死以外のなにものでもない。

自分以外に不死身の者が居たなんて、死ねない者が居たなんて、さらにこんな状況で出会えるなんて。



意識を保つのにも限界が来たのか、ゆっくりと意識が遠退いていく。駄目だ、と飛段は閉じかけの目を見開いた。やっと見つけたんだ。自分と、同じ苦しみを持つ者が。自分を、理解してくれるであろう者が。ここで見失うわけにはいかない。

飛段が凝視する中、不死なのであろう男はもう興味が失せたのか飛段に目もくれず、フイと目を逸らして違う方へ歩いていった。



意識が完全に闇に落ちる中、去ってゆくあまりに届かない背中に、飛段は己の信仰する神を照らしあてた。


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