長編置き場

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土が剥き出しの床にドシャリと叩き落とされる。後ろ手に縛られているのでろくに受け身も取れず、頬が湿った土にべたりとついた。

「こいつです、近頃我々のことを嗅ぎ回っていた輩は」

「そうか…ご苦労だったな。下がっていい」

「…で、ですが"神様"…」

「聞こえなかったか?下がっていい」

「ッわ、わかりました…」

柔らかい物腰だがどこか威圧感を感じさせる口調で、"神様"と呼ばれた男は言う。その言葉に一瞬ビクリとした下っ端は慌てて部屋(というより洞窟を区切ったような場所)から姿を消した。
一方飛段は、苛々していた。自分が捕まえられて地面に転がされていることもそうだったが、何より、自分の前でジャシン以外の神を語るなど許せないことだったのだ。
飛段は首を無理矢理持ち上げ、"神様"を見上げる。目の前には、椅子代わりなのであろう岩に腰かけた、一人の男がいた。

「おめーが暁のリーダーか?」

「…まぁ、そうなるな」

目の前の男は、フッと口元に小さな笑みを浮かべる。飛段が探している不死の男と同じ外套、(人のことは言えないが)地毛なのか疑う橙色の髪。極めつけは、顔に付けられたかなりの数のピアスである。
しかし背丈や体の大きさなどは飛段と大差ない。本当にこの男がS級の犯罪組織を纏めているのだろうか。

「何故俺たちのことを探る?」

「あーそうそう、そのことなんだけどさ…」

何にせよこの男が暁と関係していることは間違いない。暁に入れて貰えるように交渉しなくては。
とりあえず地面に転がされたこんな格好で頼むのも何なので、体だけでも起こそうと飛段は体を捻じったり藻掻いたりしてやっとのことで体を起こした。

「オレ暁に入りてーんだよ。入れてくんねーかなァ」

「…何?」

どうやら予想もしていなかったようで、ピアスの男は少し驚いた表情で飛段を見た。そこで飛段は暁に入りたくて情報を集めていたこと、自分は里抜けした身であること、そしてジャシン教という教団によって不死の力を手に入れたことを、わざわざ自らの心臓を貫いてまで証明(これにはピアスの男も驚いた)して全てを話した。
そして必死に頼み込んだ結果、ピアスの男…もといペインは、飛段の暁入りを許したのだった。


ここで話は冒頭に戻る。
暁の目的などを話していたペインだが、飛段に聞く気がないであろうことを察したのかため息をついて話題を変えた。

「どうして暁に入ろうと思った?」

「………あァ、人を探してんだ」

「人?暁のメンバーか?」

「おう。なんつーか、目ン玉の白いとこがこう赤く…」

飛段が男の特徴を伝えようとした時、ガタン、と離れた場所の壁が音を立てた。飛段は思わず話を中断し、音のした方へ顔を向ける。壁だと思っていたその箇所はどうやら扉だったようで、開いた暗闇の向こうから誰かが静かに歩み寄ってきた。

「ご苦労、戻ったか。どうだった?」

「……」

ペインが誰かに向かって声をかけたが、その誰かは黙ってこちらに歩いてくる。やがて、松明の灯りが近付いてくる者を徐々に照らしだした。
体型を隠す外套の上からでもわかる程大柄で筋肉質な体、マスクで覆われた口元、そして、あの時見たのと同じ、充血した白眼と透き通る緑。

飛段はからからになった喉で生唾を飲み込んだ。目を見開いて現れた男を凝視する。


一年、長い一年だった。
この男を見つけるためだけに、東奔西走文字通り、あちこち駆け回り、探し求め、傷つき、死にかけた。
そいつが今、目の前にいる。あの一瞬で焦がれて目に焼きついた男が。
飛段はその男の一挙一動も見逃すまいと言うように、瞬きも忘れて男を視界に捉えていた。

男は手に持っていたアタッシュケースをペインに手渡す。ペインはそれを丁寧に受け取り、男に飛段を見るよう示した。男の目が、透き通った緑のそれが飛段を捉えた。飛段は背中がゾクリとするのを感じた。

「新入りの飛段だ。飛段、こっちは角都だ」


角都、かくず。
飛段は口を開かず、口内で舌を動かした。一年も追いかけ、求め、憧れを抱いた男の名前だった。初めて人の名前を聞いた時の、あの微妙な違和感は不思議と感じられなかった。

「…奴はどうした?」

「………」

「…またか…」

「…パートナーなどいらんと言っているだろう」

険しい表情を浮かべる角都にペインは軽くため息をつき、角都から飛段に目を移した。一心不乱に角都を見つめる飛段に小さく笑ってから飛段、と名を呼ぶ。煩わしそうに振り返った飛段にペインはほんの少し吊り上げた口を開いた。

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