今夜夢


□engage
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ここにきて
こえをきかせて
思考を奪い合い
視界を奪い
聴覚を遮断して
ただただアナタだけを認識できる環境に
私を解き放って
切れることのない鎖でつないで
その先端は必ずアナタが持っていて
溢れ出してくる思いが愛なのか恋なのかなんて私に判断できる術はないのだけれど。
ただひとつ分かること。
アナタだけが、私の養分。



薄暗闇の中、ただ私に向けてだけ伸ばされる温かな手を、間違えないように握った。縋った。絡まった。

熱も引かぬ汗ばんだ肌はお互い様で、彼の熱さを残した吐息が私の肌を滑る度、どうして二人が別々の体で生まれてきたのか、その意味を知る。
ひとつの体で生まれてきたら恐らく、私たちは悲観に暮れて絶望を見るだろう。
ふたつだからこそ、お互いの存在を知り合う事ができるのだから。


「ごんべ」


優しく呼ばれた私の名前。
アナタの舌に乗せられただけで蕩け出していくのがわかる。

そのまま引き寄せられ、たくましい胸にぴとりと頬をつけて。
子猫のように甘やかされる。

「桔平さん。心臓がすごいことに」
「当たり前だろう。君が悪い」

俺を、狂わせた。

そう笑うアナタに私は何を返せばいいのか分からずたちまちに途方に暮れる。

「でも。私も同じだから、アイコです」


素直にそう言えば、彼は少しだけ驚いたように目を見開いて、すぐに相好を崩した。

その優しく下がる目尻がたまらなく好きだ。
その想いを込めて手を握る二人の薬指には、将来を誓いあったリングが光る。

私たちは昨日、婚約をしました。
あまり神も運命も信じない私たちだけれど、唯一この世の中でお互いだけは信じられることを知っているからそれでいい。
二度目の挙式なんてこの歳で照れくさいだけだからいいと言う私に頑として首を縦に振らないアナタ。
理由を聞けば自分だけの無垢な花嫁姿を見せて欲しいとどこか拗ねた様に言うアナタが愛しくて爆発してしまいそうだ。
こんな時に思う。
どうしてもっと早くあなたに出会えなかったのかと。
どうしてあんな結婚をしてしまったのかと。
最初の人で最後の人があなたでないことがこんなに苦しいということを、こうなってみて初めて思った。
いろいろな重みを持ったリングが私とアナタを繋いで縛るのがこんなにも心地いい。

シーツの波間に沈んだ二人の指を、もう誰も探さないで。



2012.9.25




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