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□1.まなもも
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「…先生が膝擦りむいて保健室来るなんて初めてなんですけど」

「やったじゃん、稲場先生。初体験」

「怪我したなんて聞いたんで心臓止まるかと思いました」

毎日保健室にはたくさんの子供たちがやって来る。
元気なのはいいんだけど、転んで膝を擦りむいたり、鉄棒に頭ぶつけてたんこぶ作ったり。
保険医のまなかとしては心配は尽きないけれど、忙しくも楽しい毎日。

最近はそれに加えて、大切な恋人も出来たりして。
楽しい毎日に幸せもプラス。

「はい、消毒するので見せてください」

「痛いのやだなぁ…」

その大切な恋人である嗣永先生は、体育の時間に張り切りすぎて転んでしまったらしい。
真っ白な膝に血が滲んでいるのは痛々しいけれど、妙にそそる。

昨日も散々愛し合ったのに。

「バイ菌入ったら大変なんですから。大人しく消毒されてくださいね」

「うぅ…染みる…」

ぎゅっと目を瞑って消毒の痛みに耐える嗣永先生は年齢よりも幼く見える。
元々童顔だけど、色気はそれ以上にある人だ。

何だか堪らなくなって、まなかは目と同じくらい固く結ばれた唇にキスをした。

「…そういうの、他の先生にしてないよね?」

「やだなぁ。嗣永先生が言ったんですよ? 初体験って」

「これからするってこと?」

「嗣永先生にだけしますね。はい、消毒おしまいです」

傷口にガーゼを当てて、ぽんぽんしてあげると、大袈裟に痛がる嗣永先生。

いちいち仕草が可愛く見えるのは、恋人の贔屓目だけじゃないからタチが悪い。

「あ、ここも傷出来てますよ」

肘のところに、血までは出ていないけれど、赤く擦れたような傷。

全く、どんな転び方したんですか。

「気付かなかった。洗ってくるね」

「このくらいなら消毒で大丈夫ですから、見せてください」

「ん」

嗣永先生の隣に座って、消毒をする。
膝ほど染みないのか、騒いだりしない。

「稲場先生?」

「…次の時間、他の先生に任せたの、聞きましたよ」

「うん。もう帰りの会だけだしね」

肘の傷に舌を這わせると、嗣永先生は小さくため息をついた後、その薄い唇の端を上げた。

「誘ってる?」

「そう見えますか?」

「見えるから言ってる」

今日はもう子供たちもいない。
他の先生方はわからないけれど、わざわざ保健室まで来る先生はいない。

まなかは消毒キットを棚に片付けると、嗣永の首に腕を回した。

「膝つくと痛いから、このままする?」

「ベッドありますよ?」

「んー、せっかくだから、このまましよ。白衣脱がすの勿体無いし」

「いい趣味してますね。嗣永先生」

「白衣だけでえっちに見える愛香ちゃんが悪い」

嗣永先生の足を跨いで座ると、すぐにキスをくれた。

恋人モードの時だけ呼んでくれるまなかの名前。

嗣永先生の声は心地よくて、蕩けそうになる。

好きだなぁ。

もっともっと、呼んで欲しい。

離れようとする唇を追いかけて、まなかはその腕の中に溺れていった。

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