BOOK

□苦しくてさよならしました
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※兄弟パロ






弱かったんだ。

だからその優しさに包まれることも、
君の胸で泣くことも、

出来なかった。






しくてよならました






広くて狭い世界の中。


まるで俺たちだけ取り残されたように、

世界は冷たかった。


ハッピーエンドになんて、なれない。


この別れは、



――それでも望んでしまった罪ですか?






「ひろ、みつ」



愛しい君の声がする。

俺を呼ぶその声は震えていて、ぎゅっと強く抱き締めた。


君の香りが、なんだか切ない。



禁忌だと知っていて手を出した。

結ばれる事なんて、あってはならない。

ああ、これが"男同士"と言うだけならまだ良かったと思う。



――弟に、恋してしまったなんて。




・・・最初は、諦めるつもりだった。

幾らなんでも、太輔が俺のことを好きなわけ、ないし。


そう、思っていたのに。



想いを伝えたのは、俺から。


黙っているのも限界が来て、兄弟の縁を切るつもりで告白した。

振られること覚悟で、だったのに。




"俺も兄ちゃんが―・・"そう言って俺に泣きついた君が、どうしようもなく愛しくて。

禁忌を、犯した。



家族と太輔、どっちを取るかなんて愚問だった。

嫌いなわけじゃない。

寧ろ育ててくれて、太輔と巡り合わせてくれて、感謝の気持ちは沢山ある。


それでも俺―・・俺たちは、二人で逃げることを選んだ。




幸せ、だった。

兄弟と言うことを隠して、人の目から隠れるように生きて。


それでも、幸せだった――・・




けれど、世界はその幸せを許しはしなかった。

神様は意地悪で、過酷なことばかりをする。


親に、見つかって。

連れ戻されて。

俺たちは、引き離された。






「太輔・・・」


こうして、ひっそりと逢瀬を重ねることしか出来ない。


ちゅ、と君の唇に口づけた。

その体温が、こんなにも愛しくて、苦しい。



あれは、間違いだったんじゃないかって。

今更なんて遅いのに、後悔で泣きたくなる。


その方が、―太輔は幸せだったんじゃないかって。




俺は、太輔を自分に向き合わせてもう一度、優しく、でも力強く抱き締めた。

"どうしたの、"と不安そうにか弱く言葉を紡ぐ君。


我が儘な俺を、どうか許してくれ。





「なあ・・・」

「なに、」


「もう、――二度と逢わないように、しよう」



俺がそう言った瞬間、太輔の目が大きく見開かれた。

涙が、ポロリと溢れ落ちる。




「なんでっ」

「―ごめん、」




その涙を拭ってやる資格なんて、俺にはないんだ。

結局自分の我が儘で君を振り回して、迷惑を掛けた。


太輔は、俺が"ごめん"ともう一度言い頭を下げると、何も言わなかった。


俺は、そっと触れるだけのキスを残して、太輔のもとから去る。



最低で、最悪な男だな。
キスなんて。


"忘れないで"って言ってるようなものじゃないか。



・・・頬を一筋の生温かいものが伝った気がした。

俺はそれを知らないふりして君から離れていく。






許して、なんて傲慢だよな。

許さなくていいよ。


だって、自分が後悔して、結局手離してしまったのだから。



でも、でも。

嫌って、俺のことなんか忘れ去ってしまっていいから。



どうか、幸せに。






「さよなら、・・・太輔」



声にしたその言葉は、思った以上に残酷で苦しかった。

こんな兄貴で、ごめん。


愛してる――・・











(苦しくてさよならしました)(それが余計君を悲しませていたなんて知らずに、)


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