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□宵月に堕ちる
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堕ちるのならば、二人で。











宵月に堕ちる











huzikaya side






ちゅ、と背中にキスをおとされる。

なんだか甘い雰囲気に酔いながらも自分も彼の唇にキスを返すした。



月は満ちてないにも関わらず明るく、俺を攻めるかのように全てを照らし出す。





「・・・宏光っ、好き、愛して・・・」



一人のひとを好きになってはいけないなんて、解っていた。

ここは遊郭。


俺は、そこで仮にも一番人気の男娼。


ああ、こんなことを上に知られたら、大変なことになるかな・・・




俺は商品で、宏光は客。


仮に宏光が俺を買おうにも、許してくれるはずがない。





「太輔・・・」



俺の名前を大事そうに、愛おしそうに呼ぶ彼の姿がなんだか切なかった。



俺、なんかが。

彼の、ー・・・宏光の未来を、壊してもいいのだろうか。






・・・最初、宏光に会ったときの印象は、あまりいいものではなかった。


俺はどうやら値が張る商品らしく、買うのは中年のおっさんか、早くに成功した利己主義者の人間だけ。



見た目は、確かに今までのやつらとは違ったけど、逆にそれに嫉妬して。

若くて、顔も整っていて、俺を買うと言うことはイコール金持ち。



どうせ今までのやつらと同じだろうとマニュアル通りの笑顔と挨拶で行為へと移った。


でも、彼は今まで相手したやつらの、誰とも違っていた。




俺に触れる手は、冷たいのに何故か温かく感じて。

壊れものを扱うみたいに、優しくて。



それから、彼は毎日のように俺のもとへと足を運んだ。


最初は嫌悪感でいっぱいだったはずの気持ちが、彼に接していくたびにどんどん変わっていって。




ー恋を、してしまった。





想いを伝えたのは、彼からで。

嬉しくて、嬉しくて、死んじゃうかと思った。



宏光は俺を身請けしてくれる、っていってたけど、やはり上は許してはくれなかった。




毎日毎日、彼に抱かれる度に苦しくなって、罪悪感でいっぱいで。


後から聞いた話だけど、宏光は有名な貴族の跡取りらしい。



余計に、胸が切なかった。







宏光は行為を終えると、俺を優しく、でも力強く抱き締めてこういった。






"二人で、逃げよう"






「っな、駄目だよっ、そんなことしちゃ・・・」


「でも、」



「宏光は貴族で跡取りで、大切な家族だっているんでしょ!?」




俺がそういうと、彼は少し驚いたのか目を見開いた。

俺が知ってることを、知らなかったんだね。





「だから、駄目。もう会っちゃ駄目だよ・・・
これ以上好きになる前に、離れなきゃ・・・っ」



震える声でそう言うと、宏光はすぐにこう返した。




「確かに、家族だっているし、跡取りっていう大事な役目もある。
でも。

それを全部失くしたって構わないほど、太輔が好きなんだよ!」




ぎゅっ



初めて宏光に、こんなに強く、痛いくらいの力で抱き締められた。

涙が、止まらない。





「・・・俺なんかのために、全部、捨てるのっ?」


「ーお前がいるなら。金も地位も権力も、何もいらねえ」





俺は、宏光の胸で、生まれて初めてってくらいにわんわん泣いた。



口では、駄目だといってるはずなのに。

・・・凄く、嬉しいよ・・・っ









? side







とある遊郭の、一番人気の男娼。

彼は、ある日を境に姿を消しました。


それは夜逃げだと言う者も居れば、物の怪の仕業だと言う者もいる。



そして、とある貴族の跡取りになるはずだった彼も、男娼と同じ時を境に姿を消しました。



二人が一緒にいるのか、今も生きているのかさえも知るものはいません。





・・・ただ一つ、解るのは。



過酷な運命に見舞われながらも愛するひとを見つけた彼と、全てを捨ててまで彼を愛した彼は、







ー今も、幸せであるということ。













(月は全てを知っている)(・・・二人に、幸あらんことを。)















元/拍手文です!


拍手文にしては色々と暗すぎました(^q^)
ただ超満足です←

なんだこれ、楽しすぎる!


二人は夜逃げしました。そして見知らぬ地で今もきっと幸せにくらしているでしょう




ここまでお付き合い頂きありがとうございました!

良かったら感想まってます☆((爆


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