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□虚しさを愛で埋め合わせて
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そうすれば、君への想いを忘れられる気がして。






虚しさを愛で埋め合わせて






ino side





「やぶー・・・」


「なんだよ、」


「ふふっ、ー好き」



俺がそう言えば君は"思ってもないこと言うなよ"なんて言って、俺に背を向けた。


"ひどーい。こんなに好きなのになあ"

とびきり甘い猫なで声で言ってやったら薮の目が一瞬だけ大きく見開かれた。



俺って、・・・意地悪いなあ。

あの子を忘れるために自分のことが好きな親友を利用して。


でも、まさか。

薮が利用されてくれるなんて思ってなかった。


・・・だって、俺があの子のこと好きなの、知ってるはずなのに。





「ねえ、」


「あー、なに?」


「ー薮は俺のこと、好き?」



意地悪い俺は君の心を弄ぶのが好きみたい。

薮はあー、と喉をならした。




「教えて、やらねぇよ」


「けち。」



"お前に言われたくねえよ!"って、俺、別にケチじゃないしー。



ー本当は、知ってたんだ。

薮が俺を好きなこと。


確信こそはなかったものの、メンバーより何より優先してくれて、何かあると必ず反応してくれる。



そんな薮を、利用したんだ。



どうしてもあの子が好きで、好きで。

薮に懐くあの子を見ていたら、諦められる気がして。


・・・薮に抱かれている時間は、あの子への想いを忘れられる気がして。





「伊野尾、」


「なに、薮」


「ー・・・やっぱり、なんでもない」




俺は君を使ってあの子への想いから逃げた。

ぽっかりと開いた虚無感を、偽りでも愛なら埋めてくれると思って。













(虚しさを愛で埋め合わせて、)(俺は逃げた)


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