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□拭いきれない想いと愛と
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君を強く抱き締めたかった。

でもそんなの出来やしないって、俺が一番解っていたはずなのに。






いきれないいと






arok side






「大ちゃん、お酒臭いー」


「うっせ」


「もう、俺の家で飲むなよ」



"俺はまだ飲めないって言うのに!"なんて頬を膨らませる山田にキュンときたのはもう何回目?

思わず抱き締めたい衝動に駆られるが、グッと押さえ込んで深呼吸をする。




「第一、聞いて欲しいことがあるって呼び出したのお前だろ」



そう言えば、"そうだけど〜"といっそうむくれる。

可愛い、なんて言ったら怒るかな。





――今日は、仕事帰り山田に家に誘われて。

理由は「相談したいことがあって」だけど、好きなやつの家に誘われて断る理由がなく。

かなりのハイテンションで行った結果が、これ。


なんて言うか、あんまり俺的に宜しくない相談だったっていうか・・・

裕翔くんのことが、好きなんだけどどうしよう、って。



山田に好きな人がいるのは、知ってた。

それが裕翔だって言うのも。


でもこう面と向かって言われると突きつけられているみたいで切ない。

第一、まず身長差が切ない・・・

なーんて。




それで悔しくなって、近くのコンビニにわざわざ行って酒買ってきて、ここで飲んでる。


"裕翔くん、俺のことなんか好きじゃないよ・・・"
"だってまず、男同士だし・・・"

ウジウジ悩んでる山田を見て、ああ俺、やっぱり「親友」なんだなぁ、って思い知らされた。

それ以下にはならないけど、それ以上の存在にもなれない。


そんな距離感が無性に苦しかった。





「もうさ、告白しちゃえば?」


「なっ、大ちゃん!そそそそんなの・・・っ」


「大丈夫。あいつ、山田のこと好きだって」


「でも、」



あー、もどかしい!


俺は山田の携帯を取り上げて裕翔にメールする。

"今すぐに家にきて"。


その内容を見た山田はなにやってんの!?と焦って俺から取り返すけど、それは送信終了後。





「絶対無理だよー・・」


「だから、大丈夫だって」



だって、俺は裕翔がお前のことを好きなのを――・・

でもその言葉は口に出さなかった。

思い切って振られてやるから、それくらいいいよな?



"じゃあ、俺邪魔になるから帰るわ"。


俺は山田にそう言い残して山田の家を出た。

酷く痛むこの胸は、きっとこれだけ好きだったって証だろう。



・・・俺も馬鹿だなぁ。

そんなの無理だよって、押し倒して告白でもすりゃあよかったのに。


結局、出来なかった。



もうすぐで見えなくなる山田の家を見つめて、"頑張れよ"って言葉に出す。

だって、まだ心ではそう思えない。




憎らしいほど晴れた雲一つ無い空を見上げて、一言。

もう、これっきり言わないから今だけ。




「好きだ――・・・っ」




それは風に掻き消されて、空高く飛んでいった。









(好き、だったよ)(いつかそう言える時が来たら、俺は幸せになってるかな、)


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