【長編】 紅の巫女

□⊂第一章⊃
父様、貴陽に帰ります。
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拝啓 父上様


紅葉の紅い葉も散り、日に日に寒さが近づいておりますが、皆様に変わりなくお過ごしのことと存じます。

私も元気で過ごしておりますので、他事ながらご安心下さい。

さて、些細ではありますが、この度国試の女人制度が始まるにあたり、私も国試を受けることに決めました。

つきましては近々、貴陽に帰ります。
長い間心配ばかりかけて申し訳ありません。

寒さを肌で感じ始めたこの時期、体調を崩さぬよう身体に気を付けてください。


敬具

詩嬉

追伸 レンが貴陽まで送って下さるのでお迎えは不要です。
また、この文が届く頃には茶州を出てますので嫌がらせのような大量の文を送ってくださっても読むことが叶わないので大人しく待っていて下さいね。




―――――――――
■貴陽紅家タヌタヌ邸■


「百合!百合っっ!!!」

バタンッ!!!と扉を乱暴に開け、室に入ってくる男に溜め息まじりに百合は答えた。

「……なんだい、黎深。私は見てのとおり忙しいんだ。どっかの俺様何様旦那様が仕事を妻に押し付けているからね。」

フン!くだらん。と黎深は吐き捨て言葉を続ける。

「詩嬉から文が届いた。帰ってくるそうだ。」

「へー、そう。くだらないで終わらそうなんて………え?!誰が帰ってくるって?」

どうせどうでもいい話だろうと半ば聞いていなかった百合。

「詩嬉だ!つい先程文が届いた。」

そう言って文を見せる。


………いや待て、文は三枚。すべて宛名が違う。

「って、黎深!それ、私と絳攸宛の文まで開けてあるじゃないか!何勝手に読んでるのさ!?」

百合は開かれている文を黎深から取り上げた。

「父親が娘の文を読んで何が悪い。気に入らんのはお前の方が私よりも百五十文字も多く、絳攸に至っては私よりも二百二十三文字も多い事だ!!」


(数えたのか…。)

そもそも百合と絳攸の文字数が多いのは、黎深の暴走を止めて欲しいという詩嬉の願いと黎深を任せっきりにしてしまう二人への労いの気持ちが込めてあるからだ。

「二年ぶりだね。帰ったら久しぶりに二人の子供達と食事会だね。」

「正確には今日で詩嬉と離れて七百四十八日だ。詩嬉が帰った日はしるこにしろ。」

「…またおしるこ?」

結婚してから三日に一度食べているのに…と心の中でつぶやく百合。

百合はまだ黎深とおしるこの謎をしらない。
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