【長編】 紅の巫女
□⊂第三章⊃
父様、今夜は藍邸に泊まります。
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七日に亘る会試が終わった。
このあと最終面接である殿試を待つことになる。
ピョロリ〜ピョロピョロリ〜♪
「…だーもぅやめなさいってば!みんな疲れ果ててるのに最後の気力まで吸い尽くすつもり!?あんたはーっっ」
秀麗は頭に羽を差し、不協和音を奏でる龍蓮に言った。
「しゅ…秀麗さん、もう少し婉曲に…」
「甘いわ影月くん!この孔雀男のおかげでどんな目にあったと思ってるの!?」
このひと月、国試受験者のトアル若君のせいで七人もの責任者が辞表提出。
受験者が次々精神錯乱、役人総出で“第十三号棟宿舎”からの救出作戦開始。
そのトアル若君、藍龍蓮のせいで抗体のある秀麗、影月、珀明、詩嬉は獄舎に放り込まれた。
「その上この孔雀男は勉強もせず笛をピーピー鳴らしているか、詩嬉にべったりまとわりついていたじゃない!しかも毎日詩嬉と同じ布団で寝るのよっっいくら詩嬉が優しいからって!」
確かにあれには驚いた。
しかも詩嬉は甘んじて受け入れているではないか。
龍蓮と詩嬉が幼い頃からの仲だとは聞いてはいたものの、若い男女が国試の予備宿舎で抱きあって寝ているのだ。
同じ部屋の他の三人は間違いはないだろう…と思いつつも、最初は気が気ではなく、試験勉強どころではなかった。
『レンは嬉しいのですよ。友人ができたのですから。今回はちょっとはしゃぎ過ぎてしまった様ですが…』
と苦笑いを浮かべた詩嬉だったがどこか嬉しそうだった。
秀麗と影月は“ちょっとはしゃぎ過ぎた”程度で済ませる詩嬉は大物だ、…と内心呟く。
「…す、すまない…龍蓮に気に入られたばかりに…」
四人を影から見ていた楸瑛は心底すまなそうに謝った。
『あら、楸瑛様。レンのお迎えですか?』
髪を下ろし、さりげなく着崩した楸瑛に詩嬉が気付き声をかける。
「藍将軍!?…あの、本当に…ご兄弟…なんですよね?」
秀麗は確認せずにはいられなかった。
「私もコレが生まれて十八年、何万回と確認したけど悲しくも事実だったよ。…その、色々迷惑をかけてすまなかったね。……龍蓮、邸に戻りなさい。」
楸瑛はこめかみを押さえつつ即座に本題に入った。
「断固断る。」
…兄弟の会話終了。
しかし楸瑛は諦めなかった。