【長編】 紅の巫女
□⊂第四章⊃
父様、一緒に懲らしめましょう。
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新進士任命式の二日前の夜、貴陽紅家に龍蓮はいた。
『レン、貴陽をでるのですね。』
龍蓮は静かに頷いた。
「…詩嬉、しばらくはこちらに来れない。くれぐれも用心してほしい。……すまぬ。」
『レン、貴方が謝ることなどありません。これを………棗を貴方に。なにかあれば棗を通してください。』
そう言うと詩嬉は、白い高級な料紙に“棗”と書かれた札を龍蓮に渡す。
この札は詩嬉の二体の式神のうちの一体、棗を納めた札。
『普段は私しか扱えませんが術をかけたので龍蓮も棗をつかうことができます。…どうか気を付けて…』
龍蓮は式神を受け取ると、詩嬉を強く抱き締めた。
「詩嬉…私はそなたの行く末を観ることができぬ。だがそれでよいとおもうのだ。……必ず共に歩むことができよう。」
確信などない。それはただの願いだった。
『……そうね、レン。また会う日まで元気で…』
―――――そして二人は別れた。共に歩める日がくるのを願って―――――。
――――――
新進士任命式も終わり、上位二十名の吏部試は行われず、様子を見ることになった。
その間、秀麗は厠掃除、影月は沓磨き、詩嬉は厩番を命じられた。
『秀麗、泥団子を投げつけられたとは本当ですか!?』
詩嬉が室に飛びこんで秀麗に詰め寄る。
「詩嬉、大丈夫よ。さすがにちょっと効いたけどね…。私は一人じゃないし!」
兄から話を聞いて詩嬉は飛んできたのだが安心した。
「それより詩嬉、さっき影月くんと話していたんだけど、魯官吏の課題を連名でやろうってことになったのだけど…」
詩嬉は秀麗が課題にする題材に気付き、首を横に振る。
『いえ、秀麗。私は別で課題を見つけましたから。そちらはお二人でどうぞ。』