【長編】 紅の巫女
□⊂第八章⊃
晏樹様、貴方の思いどおりにはいたしません。
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「……着きましたぞ。まさか帰りも、とは言いますまい。」
霄太師は金華に着くと苦々しく言った。
『えぇ、帰りは大丈夫ですわ。ありがとうございました。英姫様によろしくお伝え下さい。………鴛洵様、ここでお別れですわ。私ごときを気にかけて頂き、ありがとうございました。………次の世であいましょう。』
霄太師には聞こえなかったが、鴛洵が何か言ったのだろう。詩嬉は泣き笑いになり深く礼をした。
『…では霄太師、私は行きますわ。せいぜい英姫様におもいっきり打たれればいいですわ。』
霄太師は反論の言葉をぐっとこらえ、金華の街並みに消えていく詩嬉を見送った。
―――――――
金華の街並みを進む詩嬉の元に“棗”が現れた。
「現状を。」と問うと言葉を発することなく、詩嬉の頭の中に直接報告する。
『影月くんは無事ですね。私は菊の邸へ向かいます。レンに報告を。』
そう告げると“棗”は姿を消した。
(燕青と静蘭が向かっている。早くしないと…)
詩嬉は漆黒の髪をなびかせ、菊の邸へと急いだ。
―――――――
一方“菊の邸”にはひと足先に静蘭、燕青、克洵が到着していた。
怒りにまかせて我を忘れそうになる静蘭を、秀麗静したところだった。
「茶朔洵、王より下賜された干將と主の命において、お前を殺刃賊煽動者として捕縛する。州府城の牢にぶち込んでやるから覚悟しやがれ。」
静蘭は威嚇するように宝剣を抜き構える。
「残念だね。罪状がないよ。」
朔洵は捉えどころのない笑顔を浮かべた。
その瞬間鈴の音のような声が室に響く。