【長編】 紅の巫女

□⊂第九章⊃
璃桜様、邪魔をしないでください。
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『春姫様が縹家に見つかりましたわ。如何致しますか?英姫様。』

英姫は羽扇を片手に瞑目する。

「克洵次第じゃな。春姫はそなた程力があるわけではない。自力で逃れるのは無理じゃ。」

詩嬉が頷くと扉の向こうから克洵が声をかけてきた。

「大叔母上、克洵です。」

大事な話があると英姫から呼ばれていた克洵は緊張しながら室を訪った。


「―――単刀直入に訊くぞえ。――――春姫とはどこまで行ったのじゃ?」


突然の事に、克洵と詩嬉は本気で何を言われたかわからなかった。


『「………は?」』


「は?ではないわ。新婚の二人揃って何を今更カマトトぶる必要があるのじゃ!一線を越えたかと訊いておるのじゃ。」

二人は意味を理解するやいなや、みるみる真っ赤になった。


いっ、一線て―――!


「お、おお大叔母上!そ、そんな節操のないこと―――!」

必死の抵抗も英姫に即撃墜される。

「なんじゃ、まさかおぬしらまだ一夜を共にしておらんのか!?克洵はともかく、藍家のコワッパもか!――――仕様のない。是か否かで答えよ。第一問――――まさか、接吻はすでにすませておろうな?」

それに克洵は“否”、詩嬉は“是”と答えた。

瞬間、くわっと英姫の目が極限まで見開かれる。


その姿にびくっ、と二人は肩を震わせた。



「この甲斐性なしめ!まだ藍龍蓮はましじゃ!それなりに手を出しておるからの!それなのに克洵、そなたは接吻もまだじゃと!?それでも盛りのついた十八の青少年か!一刻を争うのじゃ!すぐに初夜を迎えるのじゃ、よいな!」

英姫は羽扇をビシッと突きつけた。





――――――

その後、英姫による“克洵・春姫の初夜作戦”が強制的に実行される。

度重なる英姫の作戦に切羽つまった克洵は、静蘭、燕青、影月のもとへ逃げてきた。

詩嬉は心底この場に龍蓮がいなくてよかったと思った。


(もしいたなら私も同じ目に合っていたわ…)


英姫が焦っているのは分かる。すぐにでも縹家は春姫を連れ出そうとするだろう。

『…二人の邪魔はさせませんわ。』

詩嬉は一人瞠目した。




―――――――

深淵の闇。秀麗は息をするのも忘れ魘される。


みるのは同じ夢。

毎夜毎夜、秀麗は朔洵を殺す。



『秀麗、それは夢です。ただの夢です。私の声を訊いて――――。貴方が苦しむことなど何もありません。ほら、貴方の大切な人たちは貴方の傍にいます。』

詩嬉の言葉に秀麗は深い眠りに落ちた。







詩嬉は月明かりの下問いかける。

『………これが貴方の望みだったのでしょう?秀麗は貴方を忘れませんわ。………でもこれが貴方の本当の望み?』

札が風に舞い上がり、人の姿へと変わる。

「………君は私を嫌っているのだろう?なぜわざわざ魂を留めたのかな?」

詩嬉は笑って呟いた。

『貴方は嫌いですけど、秀麗は違います。それにあの方に利用されるよりは私の方がマシだと思いますよ。』


そう言うと“朔”を札に戻した。
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