【長編】 紅の巫女

□⊂第十章⊃
父様、朝賀に出席致します。
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琥連城の一角で朝賀について話合っていた秀麗と影月は、扉をおもいきり開けて入ってきた詩嬉の姿をみて驚いた。


「詩嬉!?どうしたのそのカッコ!?ま、まさか誰かに乱暴を!?」


胸元を押さえ、肩を出して着崩れした詩嬉は涙目で秀麗に抱きつく。


『し、秀麗っ!わ、私には無理ですわっ、レンに色仕掛けなんて!英姫様は私に色気がないのが問題だとおっしゃるんですっ!でもそんなもの、経験がないんですからどうしようもないじゃないですかぁっ!助けてください、秀麗っ』

―――どうやら英姫はまだ諦めてなかったらしい。

未だに詩嬉の“生娘喪失作戦”は実行中だった。

―――しかし今の詩嬉の姿を見れば、誰もがイチコロだと思うが。

「え、えっと…詩嬉?そればかりは私もどうすることも出来ないわ…教えてあげることもできないし…ね、ねぇ、影月くん?」

「え、あっ、そ、そうですねー。」

二人は顔を赤くして言葉を詰まらせた。


その時、にわかに回廊が騒がしくなる。

誰かいらっしゃったのかしら?と秀麗が扉に近づこうとすると、勢いよく開かれた。

「詩嬉っ!!」

予期せぬ珍客に一同唖然。

詩嬉は英姫の特別講座を受けてから逢っていなかった旦那様の登場に顔を真っ赤にして、あたふたした。

「奴が茶州にきただろう!?無事であったか!?妻の危機に気付かぬとは夫としてなんたる不覚っ!!許してくれ、詩嬉。」

龍蓮はいつもの如く、詩嬉を抱き締めたが何やら様子がおかしい。

「…詩嬉?どうしたのだ…。む、よくみればやたら着崩れしているようだが…はっ、まさか奴に…!」

詩嬉は声音が変わった龍蓮に我に返り、慌てて事情を説明した。

『ちっ、違います、レン。これは英姫様に…あの、えっと…その…は、花嫁修行をして頂いておりましてっ!』

その場にいた秀麗、影月、悠舜は苦笑いを浮かべる。

「そうか、無事ならよいのだ。詩嬉は貴陽に戻るのだろう?私も朝賀にでる故、久方ぶりに貴陽まで二人で旅ができるな。」

と嬉しそうに言った龍蓮に詩嬉は驚く。

『えっ、二人きりですかっ!?………あの、でも悠舜様や克洵様も貴陽に向かうんですよね?し、秀麗も朝賀にでるんでしょう?皆と一緒にいったほうが……』

今まで二人きりでいることが多かった詩嬉だったが、英姫の特別講座により、龍蓮をかなり意識してしまっている為二人きりは遠慮したい。

だがそんな想いを知ってか知らずか、悠舜が余計な気遣いをみせた。

「詩嬉、たまには夫婦水入らずで、……私たちのことはお気になさらず。」

その言葉に秀麗は心の中で詩嬉を応援したのだった。
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