【長編】 紅の巫女
□⊂第十二章⊃
瑠花様、取引を致しましょう。
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真っ白な空間に詩嬉はいた。
どこまでも白く、限りない空間。
ふいに空間が揺らめくと、三人の暗殺傀儡と共に若い娘が現れた。
「―――自ら捕まりにきたわけではなかろう。紅の巫女。」
詩嬉は現れた娘に深く礼をとる。
『こうしてお会いするのは初めてですね、縹家大巫女、瑠花様。』
瑠花は暗殺傀儡を下げると詩嬉に近づく。
「何用じゃ。わたくしも暇ではない。」
詩嬉は顔を上げると本題に入った。
『私と取引致しましょう、瑠花様。秀麗と影月くんから手を引いて下さい。』
その言葉に瑠花は嘲笑う。
「二人を見逃す変わりに自分を差し出すというのか?」
一族の巫女の体を乗っ取り、瑠花は食い潰してきた。
新しい体が必要だった。
力が必要だった。
紅秀麗、朴影月、紅詩嬉は瑠花にとって最高の獲物。
そのうちの1つが手に入るのであれば誰でも良かった。
『………いいえ、私は差し上げられません。―――貴方の今の体を次の大巫女が継承するまでの間、私が延命致します。そのかわり二人から手を引いて下さい。』
瑠花は目を見開く。
「次の大巫女が継承するまでこの肉体の延命が可能じゃと?」
『はい。例え私が死のうとも、一度かけた術は解かれません。それに私は一度貴方の命を救っております。朔洵様を晏樹様に取られていれば、必ず貴方を殺しにきたでしょう。………貴方にとっては良い取引だと思いますが。』
瑠花はとっくりと詩嬉を見つめ、目を細める。
「……縹家の後ろ立ては欲しくはなかったか?あの二人を守ってもどうせ幾ばくもない命じゃ。」
それに詩嬉は儚く微笑んで見せた。
『私は“王”を決めました。いずれ私の認めた王は貴方も認めることになるでしょう。ですから後ろ立てなど必要ありません。それにあの二人には延命結界を行っております。……影月くんは難しいですが、秀麗は私の力であと二十年程は延命が可能です。』
瑠花は驚きを隠せなかった。
自分の延命をするだけで相当な力が必要だ。
それなのにすでに二人、延命の結界術を施しているとは。