【長編】 紅の巫女

□⊂第十四章⊃
父様、秀麗にバレてしまいました。
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■貴陽■


茶州虎林郡の病収束の報は、茶家の騒動と同じ―――いや、それ以上の波紋を朝廷水面下に投げかけた。



「調べによると、朴・紅両州牧は、ともに州牧の権限を返上して現地に赴いたとのこと。特に紅州牧の権限放棄は、州牧という地位のもつ責務の重さがまるでわかっていないことの証でしょう。断じて見過ごすわけには参りません。」

多くの賛同が次々とあがる。

ひとしきり、官吏たちの鳴声を聞いたあと、劉輝は頷いた。


「―――わかった。では、朴影月及び紅秀麗は、即刻州牧解任、かわりに現黒州州牧櫂瑜を着任する。朴影月に関しては官位降格、また櫂瑜を後見とし、補佐として研鑽を積んでもらう。―――紅秀麗は、引き継ぎをもって、貴陽帰還を命じる。官位はすべて剥奪、当分登殿を禁じ、謹慎処分、次の官位が決まるまでは冗官となす。」

水を打ったようにその場が静まり返った。

「……で、では、紅詩嬉官吏は?」

一拍ののち、劉輝は口を開く。

「仙洞省長官には縹家から新しく送られてくることになっている。茶州での活躍は聞き及んでいるが、次の官位について、今決めるつもりはない。当分は雑用として御史台におく。また、春の除目にあわせて現茶州州尹、鄭悠舜も朝廷に呼び戻し、空席の尚書省尚書令に叙す。」


ざわめきに室が大きく揺れた。


そして朝議の終了を告げようとした劉輝の前に、突然 紅 黎深が現れる。


突然の養い親の登場に、王の隣で絳攸は驚きを隠せずにいた。


「――主上、私からお話があります。」


黎深から意見がでるとは思っていなかった劉輝は、一瞬冷や汗を流した。


「――わかった。訊こう。」


すると黎深は顔を上げ、毅然とした態度で告げる。


「この度、私、紅黎深は吏部尚書令を辞任させて頂くことになりました。」


先程よりも室のざわめきが大きくなった。

突然の黎深の告白に鳳珠は、仮面の下で驚愕する。


「―――それは余に尽くすことができぬということか?」


劉輝は声が震えるのを必死で我慢した。


「―――いいえ、その逆です。これからつくる貴方の国に、私は“吏部尚書”として必要ありません。今後は“紅家当主”として、主上にお仕え致しましょう。」


そして黎深は膝をついた。


「―――我が家紋“桐竹鳳麟”にかけて、紅家は貴方にお仕え致します。私の子供たちが認めた、ただ一人の“王”、紫劉輝陛下に。」


あまりにも衝撃的な場面に、精神を壊す者たちやただ呆然と立ち尽くす者たちで騒然となった。


―――あの吏部尚書が膝をつくなんてっ


―――この世の終わりだ!



そんな中、絳攸は情けない顔で養い親を見つめていた。


“私の子供たち”


嬉しくて今にも泣きだしてしまいそうだ。


呆然としている劉輝と絳攸に、楸瑛が声を掛けようとして目を見開く。




騒然とした室の扉を開け、入ってくる三つの影。




楸瑛はまさか………と目を疑った。
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