【長編】 紅の巫女

□⊂第一章⊃
父様、貴陽に帰ります。
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■貴陽関所前■



薄い紅色の衣を纏った、両目の下に特徴的な泣き黒子のある男装姿の女が言う。

『レン、藍州に戻るはずだったのに貴陽まで送ってくれてありがとうございます。』

藍色を纏った、顔は美形だが近寄り難い摩訶不思議な恰好をした男はそれに微笑んで答えた。

「なに、詩嬉を送るのは当然の事、そなたは私の心の伴侶だからな。」

――レンと呼ばれた男、藍龍蓮は誇らしげに胸を反らす。

『ふふっ、レンも国試を受ける事になるだろうから二月後にまた会えるわね。』

詩嬉こと紅詩嬉は嬉しそうに笑う。

「ふむ。非常に厄介だがそうなるだろう。なに、詩嬉と会えるのであれば国試もまた良しとしよう。では詩嬉、名残惜しいがまた二月後に。」

『えぇ、レン。道中気を付けて。また貴陽で会いましょう。』

二人はギュッと抱き合い微笑んだ。

詩嬉は完璧な男装だったため、周りの人たちは男同士で抱き合っている異様な光景を目の当たりにしたのだった。



―――――――

■貴陽紅家タヌタヌ邸■



久しぶりの我が家に安堵の色が浮かぶ。

『只今帰りました。』

「詩嬉!!詩嬉〜〜〜っっ!!会いたかったよ!私の詩嬉!藍家の変人に何もされなかったかい!?」

詩嬉の実父、紅黎深は可愛い娘に抱きつく。それを詩嬉は苦笑いを溢しながら受け止めた。

『…父様、それは貴方がよくご存知でしょう。あんなに頻繁に文やら影やら送りつけていらっしゃったのですから。』


すると背後からハァッ、と大きな溜め息が。

「…黎深。あれほど詩嬉に影をつけるなって言ったじゃないか。」

『母様!只今帰りました。絳攸兄様はまだお仕事ですか?』

父親の手から逃れ、大好きな母親に抱きつく詩嬉。

「おかえり、詩嬉。元気そうでよかった。絳攸は誰かさんが仕事をほっぽりだして帰ってきたから今日も遅いんだ。」

黎深は青い顔をして途端に挙動不審になった。

『父様…。あれほど兄様に仕事を押し付けてはいけませんよ、と申しましたのに。』

黎深は百合に助け船を出して貰おうと目で訴える。

当然百合はしらぬふりを決めこんだ。

『…はぁ、明日は溜めたお仕事すべて終わるまで帰ってきてはいけませんよ。でないと邵可叔父様に言い付けますわ。』

これには流石の黎深も小さく頷いたのだった。

「ところで詩嬉、国試を受けるって聞いたけど…」

『ええ、官吏は私の夢でしたから。それで正三品位以上の高官の後見人ですが…父様は秀麗様の後見人をするつもりでしょう?』

「詩嬉の後見人もするに決まってるだろう!」

即答だった。

『いえ、それはまずいでしょう。私も秀麗様も紅家直系。初の女人国試受験者二名の後見人に紅家当主ときては善からぬ噂がたちかねません。なので今から後見人になってくださる心優しい方にお願いに行ってきますね。兄様にも早く会いたいですし。』

そう言うと直ぐ様邸を出ていってしまった詩嬉。

「なっ!詩嬉!!待つんだ!!」

黎深の叫びは虚しく詩嬉は夕陽が差し始めた朝廷へと向かった。




―――――――


『お久しぶりです、霄太師。』

気配もなく窓から入る男装をした女。いや、この者が女だと見破れるものはなかなかいない。

「っ!もう戻ったのか詩嬉…」

『あら、あまり戻って来て欲しくなかったような言い草ですね。今日は霄太師にお願いがありまして。私の後見人になっ「断る!!」……正体バラされてもよいのですか?』

詩嬉は生まれた時から死人が見えたり話したりできた。そのため魂の違いも分かる。…………彼は人間ではない。

「ぐっっ、わかった。引き受けよう。」

詩嬉は満面の笑顔で礼を述べた。
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