【長編】 紅の巫女

□⊂第三章⊃
父様、今夜は藍邸に泊まります。
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―――――――

夜も明け始めようとした頃、先に寝台で横になっていた詩嬉の布団の中に龍蓮が潜る。

『……レン?遅かったのですね。…すみません、先に休ませて頂きました。』

龍蓮はフッと笑った。

詩嬉は用意された室ではなく、龍蓮の室の寝台で寝ていたからだ。

「…詩嬉の室にいったら姿がみえないので探したぞ。愚兄に手を出されてないかと心配した。」

龍蓮は詩嬉の髪を撫でながら言った。

『一緒に寝れるのも、当分おあずけですからね……』

そう言って二人はいつものように、お互いを抱き締め合いながら眠った。


――――――――

翌朝詩嬉は朝方帰ってきた龍蓮を起こさぬように寝台を抜けると、着替えようと用意された室へ戻ったのだが、昨日着ていた衣がないことに気付いた。

しばらく探していると侍女がやってきて詩嬉の着替えの準備を始めた。何事かと問うと

「楸瑛様より着替えを手伝うよう、言付けされました故。」

と言ってあれよあれよと詩嬉を着飾ったのだった。


―――――――

『楸瑛様!困りますわ。私の衣を返してくださいませ!』

詩嬉は珍しく焦っていた。

なぜなら着飾られた衣は薄い藍色。こんな恰好で家に帰ったものなら、あの娘溺愛主義の父親がなにをしでかすかわかったもんじゃない。

そうでなくても藍家に泊まったのだ。機嫌がいいわけない。

「やぁ、おはよう詩嬉殿。とても似合っているよ。馬鹿弟ではなく、やはり私のお嫁にこないかい?」

詩嬉が呆れていると扉をおもいきり開け慌てて龍蓮が入ってきた。

「詩嬉!大変だ!我が心の友らが非道外道に拉致された!!すぐに助けに行くぞッ」

そう 言うと龍蓮は詩嬉の手をとり走りだした。

『まっ、待ってください、レン!!この恰好で外にでるのはまずいです!』

「何、問題ない。とても似合ってる。……愚兄が用意したのが気に入らんが。」

そこじゃない!と詩嬉がつっこむものの、着替えをさせてもらえないのを悟った詩嬉だった。


―――――――

一方秀麗と影月はズラリと貴陽の親分衆が勢揃いするなか、ダラダラ冷や汗を流して正座していた。

「……あの、それであの馬鹿…」

胡蝶が悩ましげに腕を組む。

「そう、たった一晩で城下の賭博場乗り込んで、勝ちに勝ちまくってくれたせいで、うちらに回ってくるあがりまで全部もってかれちまったのさ。」

つまりは博打打ちの礼儀もなく荒らしまくったらしい。

そのときだった。

不意に室が騒がしくなったかと思うと、扉が物凄い勢いで蹴破られた。

「―――我が心の友らを人質にとるとは何たる非道外道不届き千万万死に値するッ!!天に成り代わって成敗ッ!」

秀麗と影月はポカンとした。……一瞬、本気で誰かわからなかった。ついで室に入ってきた美女に、今度は唖然とする。

「……りゅ、龍蓮!?……詩嬉!?」

「心の友其の一其の二!無事だったか!?もう大丈夫だ!」

「何そのマトモな恰好!あんた誰!?」

「私も非常に不本意だが、あれは着替えに時間がかかるのだ。」

長い髪をたなびかせ、楸瑛のものと思われる雅な衣を羽織った龍蓮はただの美青年になっていた。

「それより詩嬉の恰好よ!すごく似合ってるけどなんで藍色を………はっ!!あ、あんたまさか昨夜詩嬉と……」

昨日藍邸に泊まると言った詩嬉を見送ったがまさか一線を越えてしまったんじゃ…という勘違いを盛大に頭の中で繰り広げた秀麗に詩嬉は朝の出来事を説明した。
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