【長編】 紅の巫女

□⊂第四章⊃
父様、一緒に懲らしめましょう。
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「び、琵琶姫!?なぜここに!?」


琵琶姫だと?あのコウ娥桜の傾国の琵琶姫!?


『……蔡尚書、気づくのが遅すぎましたね。“傾国の琵琶姫”は誰の座敷にも現れないで有名。その琵琶姫がなぜ貴方の前に姿を現したか……勿論貴方を探るためです。貴方が落としいれようとしていたもう一人の紅官吏とも知らずに。』


普段は髪を高い位置で結び、化粧をしない詩嬉は中性的な顔立ちのため、化粧一つで大きく変わる。故に彼が詩嬉に気づかなかったのも無理はない。


「なっ!紅進士だと!?なぜたかが進士が朝議にでている!?後見人の名も明かさぬ癖にっ!」

蔡尚書は騙されていたことに腹をたて、詩嬉の姿まで頭に入らなかった。

「…まったく、どこまで阿呆なんでしょうね。貴方は…。詩嬉は私の娘。紅家直系の姫で“紅の巫女”なんですよ。そもそも貴方が口をはさめぬほどの高官、宰相と並ぶ官位ですが。」



―しん、と鎮まりをみせた室内に詩嬉が歩みを進める。



『私の後見がお知りになりたいのですか?そこにいらっしゃる霄太師ですよ。………後見人になってくれるという方は他にもいらっしゃったのですが初の女官吏。ご迷惑をおかけしてはと思い、別に迷惑をかけてもまったく問題のない霄太師になって頂きました。』

淡々と説明する詩嬉に周り官吏たちは唖然とし、名指しされた霄太師は苦虫を潰したような顔をした。

朝廷三師の霄太師に別に迷惑かけて問題ないという詩嬉の言葉に、彼女が“紅の巫女”だという疑問が確信へと変わっていく。

「…さて詩嬉のことは一旦置いておきましょう。…蔡尚書、あなたはまた私の大切な者の誇りを汚そうとした。私は二度同じ人物を許すほど寛容ではありません。」


蔡尚書は真っ青になり震えだした。

詩嬉はそんな彼の様子を気にもとめずに書状を黎深に渡す。

「この書状はご家族ご親戚及び親しいご友人からの縁切り状です。貴方の家産一切合切すべて紅家が差し押さえました。今後紅家ゆかりの場所には近寄らぬほうが無難でしょう。」


黎深と詩嬉は冷たい瞳で口元を緩めて言を繋げた。


「『百年たっても貴方の名と顔は忘れませんよ』」


その場にいた全員がこの二人は父娘だ…。と思った。


『…蔡尚書。貴方が琵琶姫に見せびらかしていた偽の茶家の指輪も頂いていきますよ。』

詩嬉が軽く手を扇ぐとどこからか風が舞い上がり、蔡尚書の鬘を空中に飛ばす。

その時転がった指輪を黎深が拾い上げ、トドメを刺した。

「私たちが退路を一つでも残すとお思いですか?」

その言葉に蔡尚書はその場に崩れおちる。
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