【長編】 紅の巫女

□⊂第五章⊃
レン、決断のときがきました。
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そして劉輝との約束の日が訪れる。


任命式は異様な盛り上りを見せていた。なぜなら任命式の日に正式な“紅の巫女”のお披露目があるだろうと官吏たちが期待していたからだ。


―――――――


広間で次々と新進士たちに官位と辞令が与えられていく。

「――――碧珀明。そなたを、尚書省吏部下官に命じる。」

(…珀明。私の父が絶対迷惑かけると思いますが頑張ってください。)

詩嬉は憐れみの目で珀明を見た。

何もしらない珀明は尊敬する絳攸が在籍する吏部に任じられ喜びと感動に酔いしれている。

「――――杜影月、及び紅秀麗。そなたら両名を茶州州牧として任じる。」


広間は驚愕に充ち満ちた。勿論反対する官吏はいたが、誰も好き好んで今の茶州に向かう者などおらず、二人の若い州牧がこの時誕生した。

そして前茶州州牧として燕青が、専属武官として静蘭が紹介され、とうとう詩嬉の番が訪れる。



「――――最後、紅詩嬉。」



―――いよいよだ。その場の誰もが息を呑んで見守る。




「――――紅詩嬉。そなたを一官吏として仙洞省長官に任じる。」


王の思わぬ任命に、ざわっと空気が震えだした。


「主上!紅詩嬉殿は“紅の巫女”では!?なぜ国の宝である巫女に官職を?それに仙洞省長官は縹家以外の者がなることはできません!」

古株の官吏たちが騒ぎ出す。

「…それに感しては問題ありませぬ。詩嬉殿の仙洞省任命は縹家当主の意向でございまする。」

モコモコした髭を動かしながら羽羽は小さな体で精一杯胸を反らして答えた。

そして劉輝が紡ぐ。

「紅進士は確かに“紅の巫女”。昔からこの朝廷で力を発揮し、宝と称されてきた。…だが余は“紅の巫女”としてではなく、一人の官吏として余や国を支えていこうとしてくれる紅詩嬉を朝廷に残したい。彼女を“紅の巫女”という名から解放したいのだ。」

自分が求めていた言葉以上の返事を貰った詩嬉は、ぐっと涙をこらえ劉輝に向き合った。

「…紅詩嬉、もう一度言う。一官吏として仙洞省長官に任じる。受けてくれるか?」


詩嬉は満面の笑顔で礼をとり告げた。


『―――謹んでお受けいたします。そして主上に“紅の巫女”としての権限を今日ここに返上いたします。』


ざわっ、とこれまで以上にどよめきが増す。


それもそのはず。権限を返上すると言うことは、“紅の巫女”が許される国政の権限を詩嬉がすぶて失うということ。“紅の巫女”でなくなることを意味する。

劉輝は頷く。

「―――“紅の巫女”確かに受け取った。」



こうして事実上“紅の巫女”が消え、初めて縹家以外の血筋が仙洞令君任官となったのだった。
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