【長編】 紅の巫女
□⊂第七章⊃
霄太師、私もお供いたします。
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『失礼致します。…紅尚書はいらっしゃいますか?』
バタンッ!!!ダダダダッ………
詩嬉の声と同時に尚書室の扉が開き、何かが物凄い勢いででていった。
「詩嬉!?」
絳攸は久しぶりに見る妹に一瞬夢を見ているのかと思った。
それほど今吏部は地獄化していたのだ。
『…兄様、申し訳ありません。今すぐ父様に仕事をさせます。』
そう言った詩嬉が、どこかあの腹黒元公子に見えた絳攸は「やっぱり夢だったのか」と呟き仕事を再開した。
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『………まったく、私から逃げられるとお思いなのでしょうか。』
詩嬉は回廊を早足で進めながら懐から札を出す。
“盃”と書かれた札を投げると勢いよく回廊を飛んでいった。
詩嬉は直ぐ様札の後を追う。
(…………府庫へ行きましたね。)
札の方向から行き先を確信した詩嬉は札に向かって告げる。
『先に行って足止めをお願い。』
詩嬉の言葉に札は反応し、瞬く間にその場から消えた。
そして暫くすると府庫から叫び声が上がる。
『――――お久しぶりです、父様。逃げるほど私に会いたくなかったのでしょうか?』
府庫についた詩嬉は真っ黒な笑顔を久方ぶりの父親に向けた。
「…ずっずるいぞ詩嬉!式神を遣うなんて!!」
黎深は実体化した“盃”により捕縛されていた。
『こうでもしないと茶州へ発つまでに父様と話せそうにありませんでしたから。』
詩嬉の言葉に黎深はこの世の終わりかのような顔して詩嬉の脚にしがみつく。
「詩嬉!まさか茶州に屋敷を建てたわけじゃないだろうね!?あの変人のことだっ言い出しかねない!嫌だ詩嬉、詩嬉まで茶州に行くなど父様は寂しくて死んでしまうよっ!!」
どうやらこの父は、龍蓮が終の場所を茶州に決め、詩嬉を茶州へ嫁がせると思ったようだ。