【長編】 紅の巫女

□⊂第八章⊃
晏樹様、貴方の思いどおりにはいたしません。
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『―――そうですね、確かに罪状がありません。……とりあえず秀麗を離して頂けますか?朔洵様。』

朔洵の後ろの窓から気配もなく現れた詩嬉に誰もが唖然とする。

詩嬉はその隙に秀麗を朔洵から引き離し、静蘭に受け渡した。

「………おかえり、詩嬉。君が茶州入りした情報は入ってないんだけどな。」

誰よりも早く我に返った朔洵が詩嬉に向かい合う。

『先程着いたものですから。足取りを探るだけ無駄ですわ。…まったく、兄弟揃って困ったものですわ。相変わらず沢山の魂を引き連れてますね。』

朔洵は面白くない、という顔をしてみせた。

「君の言う兄弟って誰のことかな?君は相変わらず私の知らないことを知っているみたいだね。…だから私は君が嫌いだと言ったろう?」

『ご安心下さい。私も貴方が嫌いですので。―――行くのでしょう?この場は逃して差し上げますわ。いずれお迎えに参ります。』

その言葉に朔洵は、綺麗な顔を歪め詩嬉が現れた窓枠に背を預けた。

そして秀麗を見つめ、囁く。

「忘れないで。私は君を愛しているよ。君がそれを認めてくれなくても。――――だから逢いにおいで。待っているから。」


そう告げると朔洵は窓から身を躍らせた。―――まず間違いなく絶命する高さから。






「―――詩嬉!!!どうしてここに!?」

秀麗は詩嬉に詰め寄った。

『仕事でこちらに用事がありまして。無事でよかったですわ、秀麗。またとんでもない男に気に入られましたね。』

詩嬉は手巾を出すと「消毒です」と言って秀麗の顎をすくい唇を拭う。

男らしい詩嬉の行動につい頬を染めた秀麗はただ呆然と立ちつくした。

『金華全商連も秀麗側につくでしょうから忙しくなりますわよ。とりあえず影月くんと合流しましょう。』

そう言うと皆を促し菊の邸をあとにした。
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