【長編】 紅の巫女
□⊂第八章⊃
晏樹様、貴方の思いどおりにはいたしません。
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■茶本家■
『…ギリギリ間に合いましたね。』
木にもたれ掛かり、今まさに命つきようとする朔洵を見つけ詩嬉は言った。
「………君は本当に神出鬼没だね。………最期に君の顔を見て死ぬなんてすごく嫌なんだけどな。」
溜め息まじりに応えた朔洵に詩嬉は本題を切り出す。
『ではその願いを叶えましょう。私の“式”になってください。肉体は消滅しますが札に貴方の魂を留めますわ。………少し働いて頂いた後、貴方は秀麗にのみ浄化され永遠の眠りにつきます。如何ですか?』
―――それもいいかもしれない。と呟いた朔洵を見て、近くに感じた気配に向かって言葉を投げかける詩嬉。
『―――そういう訳ですので朔洵様は諦めてください。黒仙。……………晏樹様に“貴方の思いどおりにはなりません”とお伝え下さい。』
すると黒仙と呼ばれたモノが笑ったような気がしたが、瞬間その場に気配はなくなった。
詩嬉は札に“朔”と書き留めると言葉を紡いだ。
『我、主のためにその魂を以って式神となれ。』
すると朔洵の体が眩しく輝き、札の中に吸い込まれていった。
『貴方はこれから私の式、“朔”ですわ。貴方が本当に望む最期まで、私の式としてこの世に留めおきますわ。』
――――そうして“茶朔洵”は忽然と姿を消したのだった。
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■貴陽■
「へぇ、最近姿を見せないと思ったら茶州に行ってたのか。しかも先を越されちゃうなんてね。……詩嬉は私と彼が兄弟だって知ってたんだね。アレかな、魂とかで分かっちゃうのかな。」
凌晏樹は窓枠にもたれながら黒仙に話かけた。
「……まぁいいや。今回は詩嬉に譲ろう。……心配しなくても帳尻は合わせるよ。」
じゃないとつまらないだろう?と楽しそうに微笑んだ。