【長編】 紅の巫女

□⊂第十章⊃
父様、朝賀に出席致します。
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――――――


『主上、只今戻りました。』

執務室の扉を開けて室に入ってきた詩嬉に、王の筆が止まった。

「詩嬉………無事でよかった。仕事は済んだのか?」

劉輝は筆を置き尋ねる。

『目的は果たしました。ですがまた茶州に戻らなくてはならないかと思います。今回は朝賀のため、一時帰省といったところです。』

―――そうか、と呟いた劉輝に詩嬉は言葉を続けた。

『今は我慢の時です、劉輝。いずれ貴方の想いは報われますわ。私がついていますもの。』

久しぶりに名を呼んでもらった劉輝は、安堵したようにやわらかく笑った。







―――――――

その二日後、秀麗、悠舜、克洵が入都。

先に茶家新当主として克洵が王と謁見、見事難関を突破した。


(レンはともかく、父様が出席するとは思いませんでしたね。)


詩嬉は朝賀にでるべく、宣政殿に入った。


(………思った以上の野次馬ですわ。)


正式な仙洞省長官服を纏い入ってきた詩嬉に官吏たちはどよめきながら道を開ける。

そんな中見知った仮面の主を見つけ、足早に駆け寄った。

『ほ、……黄尚書、景侍郎、お久しぶりです。』


鳳珠は駆け寄った詩嬉の手をとり、引き寄せる。


「……まったく、宣政殿で走るな、詩嬉。…茶州から帰ったのか。」

相変わらず子供扱いの鳳珠に詩嬉は少し頬を膨らませてみせた。

「…ふふ、久しぶりですね、詩嬉殿。貴方が茶州に行っている間、この仮面の尚書が珍しく仕事を溜め込んでいましてね。どうやら今日は仕事が進みそうです。」

にこにこと言った柚梨に詩嬉は首を傾ける。―――瞬間、何かに後ろから抱きつかれた。

「詩嬉!!」

『……と、父様、苦しいです……』

首元に腕をまわされ、苦しそうに詩嬉は呟いた。

「っ!ごめんよ、詩嬉!鳳珠、貴様、どさくさ紛れに詩嬉の手を握るなんてどういうつもりだい?」

突然、真っ赤な出で立ちの娘溺愛馬鹿親父の登場に鳳珠は盛大な溜め息を吐く。


「………お前、なんだその恰好は。」


上から下まで真紅の黎深に鳳珠は唖然とした。

「着替えてる余裕がなかったんだよ」


黎深と鳳珠が話をしているのを聞いていると、少し離れで手招きをする龍蓮を見つけ、詩嬉は鳳珠と柚梨に礼をし、その場をあとにする。


―――何やら父親が叫んでいるのを無視して。


『レン。克洵様はどうでしたか?』

「問題ない。見事な謁見であった。」

詩嬉はほっ、と安堵した。


そんな二人を周りの官吏たちは横目でチラチラ見つめる。



――――なぜ藍龍蓮が朝賀に!?



――――なんで詩嬉様と仲良さげなんだ!?



ざわめきたっていた所で扉が開かれる。



「―――茶州州牧紅秀麗様、及び茶州州尹鄭悠舜様、ご入殿でございます。」
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