【長編】 紅の巫女
□⊂第十一章⊃
ラン様、これが最期ですわ。
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「………あの昏君がお前が認めた“王”だと?」
藍仙は目を細めて嘲笑う。
『“紅の巫女”も“彩八仙”も必要としなかった、私が認めた“王”です。』
揺るぎのない瞳で向かいあう詩嬉。
――いつだってそうだった。姿、形が変わろうとも同じ瞳で、同じ志で生まれてくる“紅の巫女”。
――そしていつだって同じ魂を持ったただ一人の男を愛した。
「――王のことはこの際どうでもいい。茶家の娘にかけられた術を解いたろう。あれだけの力を使ってなぜ命が減らぬ。強い力を使えばその分削られるはずだ。」
藍仙は詩嬉に近づき、机案に手を置く。
『……私はレンより先に死ねません。秀麗も影月くんもレンより先に逝きます。遠くない未来に。私まで先に逝くことはできないのです………ですから寿命を縮めないよう、力を使えるのはあと一年程です。その後は只人となります。』
藍仙はあからさまに不機嫌になった。
何度生まれ変わろうとも、結ばれることのなかった魂と今詩嬉は結ばれた。
“紅の巫女”ではありえなかったこと。
藍仙は昔馴染みの幸せを素直に喜べずにいた。
「―――お前はいつも“わし”を見ないな。」
手を伸ばし、詩嬉の癖のない髪を指先で梳く。
首を傾げた詩嬉を見やると、藍仙は静かに去っていった。