【長編】 紅の巫女
□⊂第十二章⊃
瑠花様、取引を致しましょう。
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束の間の沈黙が消える。
「―――取引に応じよう、紅の巫女。ただし、璃桜がお主を諦めるとは思えぬがな。私が薔薇姫の娘から手を引けと言えば、更にお主に執着するであろうよ。」
瑠花は弟を愛しい想い、そして詩嬉に忠告した。
『璃桜様には先日、宣戦布告させて頂きましたわ。私は私の道を行きます。邪魔はさせません。』
はっきりと詩嬉は言いきり、その場を去っていった。
瑠花はその瞬間、自分の体に張られた結界に気付く。まるで母親に抱かれているような、温かな結界。
そして弱まっていた自分の力が、修復されていく感覚に思わず身震いをした。
「――これが延命結界か……。これ程の術をいとも簡単にかけるとは。逃がした魚は大きかったかの。」
瑠花はどこか嬉しそうに呟く。
「―――あれが縹家に生まれておったらな。」
ただただ、真っ白な空間を見つめて思ったのだった―――。
―――――――
その頃、秀麗の元に影月から奇病発生の文が届いた。
華眞の医学書を手にした秀麗は、ただ一人“人体切開”を行える医師、葉棕庚に飛びついた。
「できますか!?」
「あーまあ、できるできる〜」
葉医師は手をひらひらさせ、適当にお茶を濁す。
「じゃがのう……、患者がそんなに大量にいるなら詩嬉の手も借りんとならんのぅ。」
意外な人物の名に誰もが驚いた。
「えっ、え!?詩嬉って詩嬉ですよね!?」
秀麗は飛び上がる。
「そうじゃ、紅詩嬉殿じゃよ。わしの弟子でな、人体切開術を教えてあるんじゃよ。」
え、えーーーっ!!!と誰もが驚愕した。
「―――で、詩嬉殿をすぐに連れてきてほしいのじゃが…」
葉医師のその言葉に、いつの間にか現れた羽羽が俯きながら応える。
「――――残念ですが、詩嬉様は別件でまだ戻れませぬ。………いつ戻るかもわかりませぬ。」
淡々と告げた羽羽に葉医師が訝しげに顎をなぞる。
別件、いつ戻るかわからない。
――――まさか。
葉医師が羽羽に確かめようとした時、室に鈴のような声音が響き渡る。
『………羽羽様、必ず戻ると言ったでしょう?無事別件は解決致しましたわ。……こちらで何か起きたのですか?』
詩嬉は少し疲れたような顔で室に入ってきた。