【長編】 紅の巫女

□⊂第十四章⊃
父様、秀麗にバレてしまいました。
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「ふふ、すごい騒ぎだね。」

「そりゃ、そうだよ。黎深のこんな姿、生きているうちに見られるとはね。」

「あ、なんか楸瑛が幽霊でも見たような顔してる。驚かせちゃったかな。」


同じ顔をした三人が黎深の元へと進んでくるではないか。


その衣は鮮やかな藍色。


更に予想外の展開に、それまで騒然としていた室がシン、と静まりかえる。



「遅い!いつまで待たせる気だっ。」


堂々と入ってきた三人を睨み付ける黎深。

「そうでもないでしょ。まったくせっかちだなぁ。」


三人は黎深の横まで来ると拝礼した。


「「「―――藍家当主、藍雪那です。お初にお目にかかります、陛下。」」」



紅家当主の後に現れた藍家の三つ子当主に、周りの官吏たちはまさか………と唾を飲んだ。


「突然の謁見、失礼致します、陛下。紅家当主の後というのが癪ですが、私たちからもお話が……」


三人の中心にいた雪那がそう告げると膝をついた。


「「「我が藍家家紋“双龍蓮泉”にかけて、劉輝陛下に恭順の意を示し、お仕え申し上げます。」」」


その言葉に誰よりも楸瑛が唖然とした。


あの仲の悪い黎深と三つ子が結託して王に忠誠を誓うなんて―――!


劉輝は瞠目したあと、静かに口を開く。


「――――余、にか?」


雪那は顔を上げ、玉座に視線を向けた。


「……はい、“紅の巫女”も“縹家”も必要としなかった、貴方様を見込んで。―――陛下のおかげで可愛い義妹もできましたし。」


その言葉に隣にいた黎深はキッと雪那を睨み付けた。


「まだ嫁にはやってない!」

「もう手続きは済ませたじゃないか。そろそろ娘離れしてくれないと。うちの嫁なんだから。」

「っ!何が“うちの嫁”だ!貴様らの嫁ではないっ!」

緊迫した静寂を玉座の前でぶち壊し始めた紅藍当主。


それに便乗して、官吏たちがざわめき始めた。


―――今、嫁って言ったのか?

―――娘ってまさか詩嬉様!?

―――義妹って…まさか藍将軍の嫁に !?

痛い視線を浴びた楸瑛は、額に手を当て溜め息をつく。


「……そうだったら嬉しいのだけどね。―――兄上、紅尚書、公表してもよろしいですか?」

それに雪那たちは嬉しそうに頷き、黎深は扇で口元を隠し、そっぽを向いた。


その様子を是、と捉えた楸瑛は重い口を開く。


「婚儀はまだですが、紅詩嬉殿は私の弟、藍龍蓮の妻なんですよ。」


その言葉に誰もが驚愕した。


紅藍両家の掌握よりも衝撃的な事件だった。
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