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□容疑者室井慎次  手紙
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 東京地検の窪薗から特別公務員暴行陵虐罪で告訴され容疑者とされていた室井慎次だった。


 自分達の保身故の醜い権力争いに翻弄されていく中でも、それでも事件の真実が闇に葬られていく事が許せなかった。

 新宿北署管轄で起こった殺人事件の真実を求め奔走している室井を、弁護士の灰島は釈放されてもその手は緩められる事無く追い詰め窮地に追い込んでいった。

 室井の胸深く傷として残っている過去の記憶を引きずり出し、曝け出す行為にまで及んだ。

 触れられたくない傷だった。自分が背負っていかなければならない消せない罪。

 事実が間違っているとはいえ、彼女を追い詰め死なせたのだ。

 そして今、自分の中に交わした約束の灯さえ守れず消えてしまいそうに細く揺らいでいた。


 あの大きな手に縋りたい。揺るぎない信念が映る眸に・・・心安らぐ笑顔に・・・

  無性に声が聞きたかった。

 「  会いたい。  」

 ぽつりと呟いたが、叶うはずがないのは分かっていた。

今自分には常に尾行する刑事と、公安達の目で監視されている。そんな中、青島まで容疑の対象にさせる訳にはいかなかった。

 官舎に帰る疲れた体に夜の冷たい小雨が容赦なく心の芯まで凍えさせた。

 官舎に戻り、郵便受けを覗くと一通の手紙が来ていた。取り出し裏を見たが名前も書いてなかった。
 
 「・・・」

 何も書いてない白い封筒に微かなタバコの匂いが香った。
 一緒にいる時いつも漂っているその香、洋酒を使い独特な製法で煙草の葉に火を付けた時、香る様にしているのだと話してくれたのを思い出した。

 来ていたのだ。いつ来たのかも分からないが確かに彼は此処に来ていたのだ。

 何処かから青島が自分を見ているかもしれない。そう思うと、周りを見渡し何度も青島らしい姿を探した。

 『こんな時間に居るわけ無いか。知らせることさえしなかったのだから。』
 
 寂しく苦笑いしながら、監視に気付かれない様懐に収めると、何事もなかった様にエレベーターに姿を消した。



 部屋に戻り、いつもなら決められた一連の作業の様にするのさえ無視をし、濡れた髪さえそのままに、彼からの手紙が読みたくて心が急いていた。

  封を開け中から二枚の手紙とお守りが入っていた。

  

 【  室井さん。オレ、会いたくて声聞きたくて堪らないけど、室井さんに迷惑かけたら悪いから手紙に書きます。

 室井さんはオレが、俺たち所轄の人間が進む道を示す目印の星なんです。

 いつも、高い所に居て欲しい。

 北署の工藤さんがウチに来てくれて話してくれました。

 周りの正義が室井さんを傷付いても、オレの所に必ず帰って来て下さいね。】

 始末書と報告書で何回と見慣れた癖字。

 
 【 追伸  効果絶大のお守り入れておきます。絶対何があっても守ってくれます。
 こんな事しか出来ないオレでゴメンね。】


 手の中にある小さなお守りを握りしめ彼なりの精一杯の愛情と優しさに、彼と約束をもう一度と強く願った。
 


                  終

 
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