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□しし座流星群
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  湾岸所で起きた事件が無事犯人逮捕という形で決着が付き、その裏付け捜査や取調べ調書作成で署を出たのが非番に当たる11月17日の午前3時を回っていた。係長に昇進したもののこなす雑用は以前と変わらないまま。いや、以前より増えたのかもしれない・・・強行犯係の新しい仲間が増えた分。

 今年は寒さが早めに来ていると某TV局の、人懐っこいお人好しっぽい感じの男性予報官が言っていた。トレードマークになってしまったモッズコートを11月早々出して着込むと、青島は帰りなれた道を歩き出し、タクシーを拾い官舎に向かった。

 向かう途中、コンビニでシャンパンを買いタクシーに戻り運転手に話し掛けた。

 「運転手さん、今日何時上がりなの?」

 「はい、今日は朝の7時上がりですが。」

 バックミラー越しから、上機嫌な青島を見ながら答えた。

 「あのね、今日午前4時ごろから5時までの間に『しし座流星群』が見られるんだって。知ってた?」

 「いえ、知りませんでした。じゃ、お客さんは今からイイ人と一緒に見るんですか?流星群を?」

 『イイ人』  もちろん室井の事だが、彼にはいく事を伝えていない。それに、夢の中に居るから無理には起こしたくない。

 「いや、寝てるだろうから。」

 「その人の事、愛していらっしゃるんでしょ?」

 「勿論。」

 「じゃ、そのイイ人もきっと、起きてますよ。」

 運転手の言葉になんだか後押しされたような安心感を憶えた。

 官舎の前に着き、料金を払うと、運転手が青島の顔を見て言った。

 「流れ星にこう伝えるんです、『貴方の流れ落ちる光を僕たち二人に永遠の灯火を点して下さい。』って、叶いますよ。」

 そう告げると、走り去ってしまった。

 
 大きな音を立てない様に、ドアを開けそっと忍び込むように、部屋に上がった。

 暗闇の中で廊下の足元を照らすルームランプのお蔭で自分の部屋に辿り着いた。

 いつの間にか此処で過ごす二人の時間も長くなり、室井が自分の為に空けてくれたのだった。

 鞄とコートを下ろし室内着に着替えると、隣の部屋へ、起こさない様静かに忍び込んだ。

 やはり室井はベッドの中で眠っていた。

 そっと近づき、何百回と見慣れてきた室井の寝顔を改めて見つめ、自分の中で今も変わっていない気持ちを改めて感じていた。

 「ただいま、室井さん。」
そっと呟き、薄く開いた唇に自分の唇を軽く重ね、また室井の顔を見つめていた。

 初めて出会ってから、お互いの夢を誓い合い、それが恋愛感情に変わってから15年という月日が流れていた。

 愛しい男の髪にも少しずつ白いものが混じり始め、読み物の上には眼鏡が置かれている様になった。

 今もこれからも、自分はこの室井慎二という男に心も躰も捕らわれているだろうと思った。

 青島は起こさない様ダイニングに向かった。

 先ほど買ったシャンパンを一人で飲む事にした。流星群に願いを込めながら。

 ふと、ダイニングには豆電球が点いており、テーブルを薄明るく照らしていた。
 目を凝らしてみると、テーブルの上にはシャンパングラス2つと、つまみで手作りのカナッペが用意されていた。

 驚きと、嬉しさ、同時に待たせていた事に申し訳なさがこみ上げていた。

 見えるであろう方向に目を向け流れ星を見つけようと探していた。すると背後から冷えたシャンパンを頬に当てられ、驚き振り向いた背後に室井が優しく笑い掛けていた。

 「事件解決、ご苦労様。疲れたろ?食べれるか?作って置いたのがあるから温め直すぞ。」

 「起こしちゃって、すみません。大丈夫です、室井さんこそ構わず寝てください。」

 「私は今日非番の日だ。」

 「それに、一緒に見ないか?『しし座流星群』を。」

 青島は目の前に居る愛しい恋人を思わず抱きしめていた。

 「はい、室井さん。」

 二人はお互いの唇を求め合い、深く甘い接吻を交わしていた。

 惜しむように唇が離れると、室井はいつも恥ずかしがるように眸を逸らす癖を、いつ見ても
可愛く見え青島のお気に入りだ。

 「見ましょうか?『流れ星』」

 二人とも上着を着込みベランダに出て星を探した。

 暫くして、青島が小さい声を上げ室井に教えた。

 「室井さん、あの方向の上あたり結構流れますよ。」

 後ろから抱きしめながら見ている青島が、興奮気味に教えてくれた。

 その時同じ方向で流れ星が細い光を放ちながら、数秒で姿を消していった。

 「貴方の流れ落ちる光を僕たち二人に永遠の灯火を点して下さい。」

 室井が静かで小さな声で呪文のように唱えていた、タクシーの運転手が教えてくれた言葉に驚いて聞き返した。

 「室井さん、その言葉って?・・」

 急に恥ずかしがるように「乙女チックと笑うな。この言葉を掛けると願いが叶うらしいと聞いたから・・・」すねた声で答えた。

 「   いえ、オレもその『魔法の言葉』を言おうと思って。  いつまでも、ずっと一緒に居ますから。」

 抱かれた腕にもたれながら、「  あぁ、オマエなしでは、居られない・・・。」

 室井の言葉に、より深い愛が青島の中で強くなっていた。


                 END

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