ODS

□夫婦ぜんざい
1ページ/1ページ



  昨日(11月19日)室井さんと喧嘩した。

 おとついは流星群で、俺に優しかったのにさ・・・

 喧嘩の原因?・・・『味の好み』についてだった。

 そりゃ、育った土地や風土、家庭の味付けで
好みが違うって言うのも十分分かっているつもりだった。  ところが、

 「あんな、しゃびしゃびの水っぽい「しるこ」など食べれるか!」

 室井さんは、「おしるこ」のことを『あんな不味い物を。」と言わんばかりに、眉間にしわを寄せオレを睨んだ。

 「なんで?あれは、あれで美味しいでしょ?何で室井さんは嫌いなの?」

 覗き込むように聞き返す。

 「食わず嫌い?・・・」

 じっと見つめ返す、切れ長で黒メノウ色の眸は一瞬揺れ、すぐまた視線を彷徨わせた。

 「こ・・・こしあん は、苦手だ。」

 「へ?」

 「私は、こしあんが苦手なんだ。」

 「・・・なんで?美味いじゃない?こしあん。」

 「  甘くないんだ。こしあんは。  」

 「えー!充分甘いでしょう? 室井さん、こしあんも立派なあんこの仲間!オレは『しるこ』大好き派、こしあん大好きだもんね。」

 「甘味が足りないんだ、こしあんは。やっぱり、あんこは『つぶあん』くらい甘くなくてはあんことは言えん!!絶対に『ぜんざい』だ!」

 「わかった、室井さんは秋田出身でしたよね?」

 「それがどうした。」

 「東北の人って味付け濃いのが好きだから、室井さんも甘ったるい『こしあん』がすきなんだ。」
 
 「東北人を馬鹿にするな!!」

 「ぜんざいの良さも知らん奴が、勝手な事いうな!!」

  むくれた室井さんは乱暴に自分の部屋に閉じこもってしまった。

 「っちぇ、室井さんの頑固者。・・・」

 ぽそっと呟いた小言もしっかり襖越しに聞かれていた様で、

「わるっかたな!『頑固者』はもって生まれ持った性格だ!」

 完全に拗ねさせてしまった感の冷たい声が響いてきた。





 あの日の事を根に持っている様子の室井さんは、一向に不機嫌なまま口さえも利いてくれず、丸二日過ぎようとしていた。

 署長の使いで、本店に来ていたオレは室井さんに少しでも会えるチャンスを狙っていたが、オレをまるで害虫か何かのように敵視する、新城さんに追い払われて仕方無しに帰る為本店を後にした。

 お昼も過ぎ3時になろうとしていた。そのまま署に帰ってもつまらなし、せっかく時間は有るんだ、道草して帰ろうと湾岸署に帰る道とは逆方向の駅に向かう通りをゆっくり歩いていた。その数100メートル先に、会えなかった恋人の姿を見つけた。

どんなに遠く離れていても、愛しい恋人の姿を見間違うわけが無い。黒のロングコート姿の恋人はどこに居ても、大勢の人の波の中でも目を引く存在だと。

 日常彼の周りには2〜3人部下が居る。そんな彼は今日に限って一人で街中に居たのである。何処かに向かうのであろうか、脇目も振らず歩く彼の姿にオレは、何か秘密に出会える予感がして『容疑者室井慎二』を尾行をする事にした。

 大通りを抜け裏通り一本奥に入ったとたん、世界が一転し人の通りが少ない場所が広がっていた。その道を通い慣れた様子で歩いていく室井さんの姿を追っているうちに、あるお店の中に入っていった。近くまで寄り、その店に掛けてあった暖簾を見ると藍地に白抜きで【甘味処 たちばな】と書いてあった。

 室井さんは店の中に躊躇う事無く入っていった。

 『甘味処』と言えばイメージ的に女性が好んで行く場所を、室井さんが【お一人様】している事にオレ以外も絶対に驚くと思った。
 
 大勢の女性の中へ、あのいで立ちと不機嫌そうな顔で入っていけば、店内で楽しんでいる女性客は絶対に引いてしまうだろうし、お店側にも迷惑が掛かってしまうだろうと、オレの中の脳内で勝手に思い込んでいた。

 室井さんの中での様子を知りたくて怪しまれない様、外から覗き込んだ。

 やはり、常連だったのだ。店員に促される前に自分の指定席らしい奥の窓際席に座ると、奥から店主らしい老婦人が出てきて室井さんに笑顔で話し掛けた。室井さんも女性店主にオレにも見せた事もない柔らかな表情で受け答えしていた。

 「っちぇ!なんだよ、室井さん。あんな顔オレにだって見せた事ないくせに。」

 胸の中で、面白くない!と愚痴ってみた。

 注文を取り終えたのか、店主が奥に下がると鞄の中から眼鏡と文庫本を取り出し読み出した。寛いだ姿の室井さんを見ていたオレは何故だか、見なければ良かったと後悔感しか残らなかった。

 たまの休み二人で過ごす時間は、出かける事もしない。そりゃそうだ、何所で誰に見られるかと言うリスクを減らさなきゃなんない。
 必然的に深夜に飲みに出るか、家でレンタルしたDVDを見る事しか出来ない。悲しいかな、今の二人の恋愛関係だから・・・昼間こんなデートに誘ってあげられない。男同士の恋愛関系よりも、アノ人の立場を考えた時オレがそうしていたのを、アノ人は合わせていてくれていた事を、知ってしまったからだと。

 暫くして店主が室井さんの注文した品を盆に載せて持ってきた。

 よく見ると2つお碗が用意されていた。一つは少し大きめで、黒地に羽を広げた白鳥の絵柄。もう一つは小さめの赤地に背を低くし見上げる様子の白鳥の絵柄。

 店主の口の動きから、どうやら【夫婦ぜんざい】を頼んだらしかった。が、赤のお碗の方を示し『おしるこ』で黒のお碗の中身が『田舎ぜんざい』という事を知った。

 店主は室井さんを見つめ、可愛らしく小さく笑うと軽くお辞儀をし去っていった。

 室井さんは、いつもの照れを誤魔化す時困った様に眉間にしわを寄せる仕草を作りながらも、赤い碗の『しるこ』を手に取り口を付けた。味わい咽喉の奥に流し込んだ後室井さんの表情から、幸せ感が広がっていた。

 あんなに「味が薄くさらさらした食感の、しるこは嫌い」だと言っていたのに、幸せそうな表情を見て、オレの中にも至福感が生まれていた。

 一緒に居るから、恋人だから、相手の全てを知っていて当然とか、相手も自分の全てを分かっていて欲しいだなんて思う方がオカシイ気がして、こんな関係も良いのかと・・・思った。

しかし、つぶあん好き室井さんが一人でも食べに来て、幸せそうにてべているからには、室井さん好みの味なのだろうと思ったが、誰かに教えて貰ったのだろうと勘ぐってみた。

 食べ終わり勘定を済ませ店から出てきた室井さんは、いつもの『ザ・官僚 室井慎二』の顔に戻っていた。

 「こんな所で、サボっちゃって良いんですか?参謀審議官が。」

 背中から声を掛けられた室井さんは、物凄く驚いた様子で俺の方に振り向き、目の前に居るのが逢う筈も無い自分だった事に言葉も出ずに、大きな眸をさらに見開きその場で固まっていた。

 「ずるいなぁ、室井さんは。一人で美味しい店を内緒にしていたなんて。」

 オレは室井さんにびっくりが成功した事に嬉しさがこみ上げていた。そして、まだ固まっている室井さんの腕を掴むと、店の隙間の路地に連れ込みいたずらっぽく笑い掛けた、

 「   しるこ・・・美味しかったでしょ?」 
 
 何も言えずオレを見つめている室井さんの顔に近付きそっと手を顎に沿え、唇を重ね舌を割り込ませ室井さんの中の甘さを味わった。

 「室井さんのキスあんこの味がする・・・。」

 日中の明るい場所で、それもいつ誰に見られるか分からない屋外での接吻も、室井さんは嫌がらなかった、逆にオレの背中に手を回していた。
 
 こんな、刺激的な場所での接吻に室井さんの下肢は欲情の証を示していた。

 「室井さん。  時間ある?  家じゃ、嫌だ。  」

 誘ってみた・・・・こんなチャンスは逃がさない。

   妖しく彩を含んだ眸でオレを見つめ小さく   「あぁ。」と囁いた。



 
 まだ太陽の日差しが差し込むホテルの部屋で、オレは室井さんのしなやかに反る躰に熱く滾った欲棒を楔ながら抱いていた。

 深く繋がる度、悦楽に漏れる甘い声を押さえ込もうと咥えた口元からは塞ぎ切れず、オレも耳を刺激し、隅々まで目の前に照らし出された室井さんの躰はオレをイカせるのに充分な程だった。

 向き合いながら繋がり絶頂を迎えようと激しく律動しているオレに抱きつきながら

 「あ・・青島・・・アアッ、オマエはそんな眸の色で、私を抱いていたんだな。・・」

 そう言って、愛おしそうに髪に手を潜り込ませた。

 いつもは、部屋で薄明かりの照明の下で、オレの表情は見えなかったかもしれない、実際オレ自身どんな顔で室井さんを抱いていたなんて知らなかった。

 「そう、  室井さんの声やイヤラしい顔、躰がオレをエロくさせってんです。  欲求に飢えたケダモノなんです。どうかアンタの中で鎮めさせて・・・・室井さん。」

 そう囁くと、アノ人は自ら腰をオレに押し付けてきた。

 オレの送るリズムにアノ人の声が、悲鳴に近くなり締め付けていた秘腔がおれ自身を更に奥へ迎え入れようと別の生き物のように蠢いていた。

 「〜〜〜あおしまぁ・・・・もぉ、  イク。   出るぅ!!!」

  仰け反りながら躰全身が痙攣を起こしながら、はち切れんばかりに怒張した先端から熱い白液を迸らせ絶頂に達した。

 オレは我慢しきれず発せられる室井さんの喘ぎ声を口で塞ぎながら、躰の奥に自分の熱を注ぎ込んでいた。


 夕日が差し込み、室井さんの躰のラインを陰影で美しく作り出していた。

 「  なぁ、青島・・・」

 ベッドのシーツに埋もれながら室井さんはまどろんだ声で声を掛けてきた。

 「何です?室井さん。」

 「今度、あの『たちばな』にキミと一緒に食べに行きたいな。」

 「いいっすね。連れて行ったください。  あそこのお勧めは何ですか?」

 「    夫婦ぜんざいだ。    」

「その代わり・・・っちゃ、変ですけど。
   オレ、今日みたいなの  クセになりそうです。   」

 一瞬、見開いた瞳はオレをまた優しく見返し

  「そうだな、たまになら良い。   」

と、いたずらっぽく笑っていた。

 「あ、そうだ。勿論あの店は、すみれさんには内緒だけど、一体誰に紹介されたんです?室井さん。」

 こういった事には感が冴える刑事青島の質問に素直に答えた。

 「絶対他に漏らすなよ。」
 
 「はい。」

 「特1の一倉、SITの木島、SATの草壁、爆処の眉田だ。」

 「はい?  待って下さいね。 え〜っと・・・」

 イメージ的に処理する時間が掛かってしまったのには、否めない。  っだって、その面子絶対にオカシイもん。

 「   あのぉ・・   」

 「何だ?」室井さんは、言ってしまった事に後悔してる感じ。

 「どういった、お友達関係なんです?」

 「『おともだち』ゆうな!  事件でに決まっとろうが。」

 「へへへ・・・ですよねぇ。 」

 そう苦笑いをしながら、オレの中の刑事の感は全否定していた。

 『いや、絶対に、【甘いもの同好会】かなんかに決まってる。』
 
 怪訝そうにオレを睨んでいる室井さんを、抱きしめ

 「室井さんの、お勧めする甘味処は?」

 「浅草の・・・!! 青島!!」

 怒ってオレに向かって枕を投げつけてきた室井さんが、やっぱり愛しく感じた。

             



                終


 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ