「・・・・?・・・・・」
窓から差し込む朝日で目を覚ましたチェギョンは、眠気眼《「寝ぼけ眼」の誤用》を擦りながら体を起こし昨日の一夜を過ごしたスチョルの姿を探した。しかし、それがまるで夢の中の出来事だったかの様に彼の姿は何処にもなく、SEXをした跡さえ無く自分も昨日の服を着たままベッドに寝ていたのだった。
『おい・・・・オレ、昨日スチョルを抱いたぞ。・・・夢?・・・・いや、夢なんかじゃネェ。確かに昨日の夜、あのバーで知り合ってタクシーでオレの家で・・・。』
チェギョンは股間に手を当てた。あれだけリアルな夢だとしたら、夢精していても可笑しくなかったと思ったからだった。
「バァカか?オレは一体幾つになったと思ってんだ? いいオッサンなんだぞ?ガキみたいに今頃夢精してどうッスンだ?」股間の確認しながら独り毒づいていた。
シャワーでも浴び、気分をスッキリさせようとバスルームで着ていた服を脱ぎ捨て鏡に写った自分の姿に驚き視線を逸らす事が出来なかった。
全身に付けられた紅い跡。そしてチェギョンが気を失い、スチョルがウエットオーガズムに達した時自分の両腕を強く掴んだ痣が、昨日の出来事が夢では無かった事を物語っていた。自分に付けられた跡を1つ1つ目で追うたびにハッキリとスチョルの甘い啼き声と肌の熱さ、忘れ去る事が出来ない香が強烈に呼び起こされ、スチョルの躰を欲しがる様にまたチェギョンの男根が熱を帯び、鎌首が天に向かい擡げていた。
「スチョル・・・何故オレの前から消えた?・・・」
完全に硬さを持ってしまった己の男根に手を沿え擦り刺激を与え始め、記憶とリンクさせていた。
「はっ・・ハッ・・・・スチョル・・・・・・おぉ・・・・たまんねぇ・・・・・ッ・・・・」
緩急を付け上下に擦り上げ、脳裏でスチョルの秘腔で味わった快楽を思いだし、くぐもった声を漏らしながら勢い良く白濁した精液を射出していた。
「 ッくしょう!! 何なんだよ!! オマエは誰なんだ?・・」
勢い良くシャワーからお湯を頭から浴び、たかが一夜の遊びのつもりだったスチョルの事を忘れられなくなってしまっていた。
自分の部屋でお互いを貪る様な激しいSEXをし、姿を消してしまったスチョル。自分の躰に残されたキスマークと、唯一手がかりで落ちていたスチョルの服のボタン。
そのボタンからかすかに残されたあの香・・・・会いたかった、二度と自分の前から消させないつもりだった。
チェギョンはそれを握りしめ毎夜男達が出会いを求め集まるこの街のバーに通っていた。どこかでもう一度出会えるかも知れない。いや、むしろ情報が欲しかった。スチョルのことが知りたかった。
彼は誰なのか?何処にいて何をしているのか。
バーテンダーに聞いてみてもそれらしい人物の話も聞けなかった。
その日も情報が得られないままカウンターでロックを煽っていると、バーテンダーがチェギョンに小声で話し掛けた。
「チェギョン、貴男の左にいる彼が話したい事が有ると言ってますが、どうします?」
少しだけ視線をその人物の方へ促した。其処には整った顔立ちの青年がチェギョンに向かって美しい微笑みを送っていた。
「いいぜ、彼に何か一杯奢ってやってくれ。」
バーテンダーは軽く頷くと、オンザロックを手際早に作り青年の所へ届け2〜3言葉を交わした。すると青年はグラスを片手にチェギョンの隣に腰掛けた。
「こんばんは。ご馳走になりますチェギョンさん、ボクはチェ・スンジョンと言います。」
「あぁ、宜しく。」
「ボク、チェギョンさんに会いたかったんです。今夜此処でチェギョンさんとお酒が飲めるなんて幸せな夜です。」
「 オレみたいなオッサンなんかより君みたいなオムムパタルにはもっと良いモムチャンが居るんじゃないか?」スンジョンには悪意は無かったが皮肉を言ってしまった。
スンジョンは気にすることなく笑みを湛えたまま言葉を続けた。
「そんな、貴男程の荒々しいオスがボクは好みのタイプなんです。」
SEXの相手へのモーションだと言う事は分かりすぎていた。
「スンジョン。オレに話したい事が有るって言うのは単なるSEXの相手をして欲しいって事か?」
単刀直入に切り出しにも動じる事もなくスンジョンは応えた。
「ええ、そうです。貴男とのSEXは最高に良いと有る男から聞かされました。もしそれが事実でボクが貴男とのSEXでイケたらその人の情報を話しますよ。この条件悪くないでしょ?」
もし、スチョルの事で何か少しでも分かる事が有るのなら悪くない話だと思った。
据え膳喰わぬは何とやら・・・毒を喰らわば皿までも。腹を括るしかなかった。
「ヨガリまくって泣いてもオレは容赦無しだ。失神すんじゃねぇぞ。」
「 商談成立ですね。実のところ、貴男に喰われる悦びを味わえるならボクにとっては贅沢な事ですよ。」
スンジョンが席を立とうとした時チェギョンは腕を掴み訪ねた。
「スンジョン、オマエの知っている男の事と、オレの知りたい情報が違っていたら、どうするつもりだ?それだけ答えろ。」
威圧感を感じさせる言葉にもスンジョンは怯むことなくチェギョンへ向き直ると
「イ・チェギョン、貴男の知りたい男は、・・・・ユン・スチョル32歳、ソウル生まれ。 これで良いですか?。」
スンジョンから知らされた情報に、一抹の光明を見つけた気がしそれに縋り付きたかった。
「 いいだろう、信用しよう。」
「後は、たっぷりボクを満足させてくれたらです。ボクがホテルを予約してありますから行きましょう。」
2人は店を出てタクシーに乗り込むと、スンジョンの予約したホテルへと消えていった。
スンジョンが予約をしたのは世界的に有名なホテルだった。2人を乗せたタクシーがエントランスに滑り込むなりホテルマンが優雅な手つきでドアを開け軽く会釈した。
スンジョンは降りるなりホテルマンの手にさり気なくチップを握らせ、何事もなかった様にホテルへと入っていった。フロントマンにカードキーを受け取りなにやら小声で会話を済ませ、待っていたチェギョンをエレベーターへと促した。 歩きながらスンジョンが冗談事のような口調で呟いた。
「いつも私がこうやってここで男と1夜を共にしているとお思いでしたら誤解ですよ。今夜は特別な夜ですから、。」
「柄にもなく乙女チックなんだな。笑えるぜ。」
「恋人を横取りする気分がしますよ。」
「趣味ワリィな、オレもオマエも一回ッきりの関係だ。次は無ェ。 いいな?。」
「貴男の望みが叶うと良いですね。」
「フザケてろ。」
気分が最悪になりつつあるチェギョンを押しとどめているのはスチョルの事だけのためだったが、自分の欲しい用件さえ満たされるのであれば我慢すればと考えていた。
部屋に着きスンジョンがドアを開けチェギョンを招き入れたその部屋は一泊数百万ウォンする部屋だった。夜景が宝石を鏤めた様に煌めき、眺めが美しいこの部屋をこれだけの為に予約をする不自然さに、チェギョンは無意識に全身の神経を集中させ警戒し始めていた。
先程のチェギョンと漂わせている空気が違うのを察知し、ブランデーを運んできたスンジョンは崩す事のない笑みで答えた。
「そうです、私は貴男の察する通りの世界の人間です。しかし、こうして直接相手に会って話をする事はありません。勿論今夜この部屋には私の部下は1人も居ませんし、貴男とSEXがしたい。この欲望を満たしてくれれば良いのです。情報はそのお礼と言った筈です。」
「オマエの欲求を満たしにアソコに入り浸ってンのか?」
「私だって男です。」
「お忍びで漁って満足させれなかったら、壊すのか?」
「素性がバレても困るので仕方ないですね。」
「メスのカマキリか蜘蛛だな、まるで。そうなるとオレも終わったら喰われちまう訳だ。」
「貴男は違うとカレが言っていましたから。」そう言うと立ち上がり言葉を続けた。
「その後はベッドの上で。先にシャワーを使いますが契約は守って下さいね。」
シャワールームへ姿を消した後も、ブランデーを喉へ流し込むが酔う事さえ出来ずにいた。
セミダブルのベッドの上でスンジョンが朦朧とした意識のまま躰を投げ出していた。何度と無く絶頂を迎え失神しそうになっても、それでも契約通りチェギョンのSEXは終わりを迎えることなく続けられた後、やっと解放された満足感に浸っていた。
汗に乱れた髪もそのままにチェギョンに顔を向け、笑みを浮かべながら口を開いた。
「やはり、彼の言う通り貴男とのSEXは最高だ。このまま溺れてしまいそうな程気持ち良かった。」
そんな言葉にタバコを燻らせながらチェギョンは無表情のまま素っ気なく答えた。
「そりゃ良かった。ご期待に添えれて光栄だ。」
チェギョンの中でやはりスチョルとのあの夜のSEXが忘れられず、スンジョンを歓び啼かせていたがスチョルの躰を思いだし、最後まで自分が射精出来なかった。
その表情をスンジョンが見逃すはずが無く話し掛けた。
「チェギョン、もっとスチョルについてもっと情報が欲しくありませんか?」
その問いかけに今まで顔さえ見ようとしなかったチェギョンが初めてスンジョンの顔を向けた。
「もし、貴男が私のオーナーに会って、仕事を手伝ってくれるというのならスチョルに会える様セッティングします。この際私たちの仲間になりませんか?」
チェギョンは自分の素性について探られている事に厄介さを感じつつも相手が何者なのか知りたかった。このままでも自分の本当の素顔を知られる事もないのだが、周りに目を配る面倒臭さが増えるのが嫌なだけなのだ。
「スンジョン。勘違いするな、オレは単なる男とSEXするのが好きなゲイのチンピラだ。変な買い被りはよせ。迷惑なだけだ。」
「買い被りだなんて、私は貴男というオスに惚れてしまった。離れたくないだけです。何だったら今夜にでも貴男が忘れられないスチョルに会わせてあげても良い。」
「何故、スチョルの居場所を知っている?!」
自信ありげに答えるスンジョン声を荒げてしまった。
「何故? スチョルもね、私達のなかまだったからですよ。」
意外な告白にチェギョンは驚きに余り言葉を失い、目の前のスンジョンが言った言葉に自分が理解出来ずにいた。